Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

労働法一般

労働者派遣法の改正法案

平成26年3月11日に国会提出された『労働者派遣法の改正』案について、少し内容をご紹介したいと思います。
なお、この法案は、第186回通常国会(会期:平成26年6月22日まで)で、審議予定となっており、実際の国会審議はこれからになる見込みです。

法案の概要は、次の通りです。

①特定労働者派遣事業の廃止
②労働者派遣の期間制限(いわゆる『抵触日』)の撤廃
③派遣労働者の均衡待遇の確保・キャリアアップの推進

平成27年4月1日の施行を目指すというものです

法改正の目的は、派遣労働者の一層の雇用の安定と保護等を図るためとしていますが、具体的にそれぞれの項目について、内容をご紹介したいと思います。
ご紹介の合間に、小生の私見が多少入るかと思いますが、予めご容赦をお願いいたします。

(1)特定労働者派遣事業の廃止

 現行の制度では、特定労働者派遣事業は届出制で一般労働者派遣事業は許可制となっていますが、改正法ではすべて『許可制』に統一するとしています。
 派遣労働者の保護を第一に考えると、事業者としての要件がかなり甘い『届出制』よりは、資産要件等で事業者を選別する『許可制』の方が労働者保護の目的を達成しやすいというのが、大きな要因となっていると考えられます。
 この点から想定すると、今回の『許可制』への統一で従来の資産要件が緩和されるというのはなかなか難しいのかなと想像できます。
 つまり、現在、特定労働者派遣事業の事業者は、早い段階で1事業所2000万円の資産要件をクリアできる財務体質を構築する必要がありそうです。
 なお、法改正の経過措置として特定労働者派遣事業が認められるのは施行日から3年間ということですので、平成30年度末までに事業許可を取得しない限り、その事業者は派遣事業からの撤退を余儀なくされるということになりそうです

(2)労働者派遣の期間制限(『抵触日』)の撤廃

 現状法では、労働者派遣の期間制限について、いわゆる専門26業務には期間制限がかからず、それ以外の業務については原則1年、例外3年の期間制限が設けらています。
 しかし、この専門26業務の解釈については、かなりの不明瞭さがあり、この業務が専門26業務に該当するか否かの判断が難しく、明確な判定は困難と言わざるを得ないと言われています。
 こういった、わかりにくい状況を打破するため、すべての業務を共通にするという改正をすることとなったようです。

その規定ですが、次の通りです。
①派遣労働者個人単位の期間制限を3年
 改正法案では、期間制限の適用除外に該当する場合を除き、派遣先企業の同一組織単位で同一派遣労働者の受け入れ期間制限を3年と規定しています。
 但し、適用除外の規定がいくつか定められており、その中に無期雇用されている派遣労働者に係る労働者派遣については期間制限の対象外となります。

 なお、3年を超えて同一の事業場で同一の業務に同一の派遣労働者を受け入れた場合、派遣先事業主が当該派遣労働者へ直接雇用の申込みをしたと見做すとされています。

②派遣先企業の事業所単位の期間制限を3年(但し、一定の場合延長可能)
 派遣先企業の受入期間の制限として、同一の事業所の同一の場所で3年を超えて受け入れをしてはならないと定めています。
 但し、3年を経過する1か月前までに当該事業所における過半数代表(又は過半数労組)の意見を聴取した場合、さらに3年間派遣労働者の受け入れが可能となるようです(さらに延長期間が経過したときも同様の延長が可能)。

(3)派遣労働者の均等待遇の確保・キャリアアップの推進

 派遣労働者の雇用の安定と処遇の改善の推進を進めていく必要があるとして、賃金の決定、教育訓練、福利厚生施設の利用についての均衡待遇の確保やキャリアアップの推進のための配慮(教育訓練や適正な派遣就業の確保等)を求められることになります。

以上が今回の労働者派遣法の改正法案の概要となります。
これからの国会審議で法案が成立することになれば、平成27年4月からこれらの改正法が施行されることとなりますので、今後の法案の成立の行方に注目したいと思います。

改正・労働契約法を根拠とした初の提訴

本日(平成26年5月1日)、東京都内の鉄道会社の駅売店で働く非正規労働者(有期労働契約による労働者)ら4人が、売店を運営する鉄道会社の子会社を相手取り、正社員との3年分の賃金格差を含む計約4,250万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴しました。

平成25年4月に施行された改正労働契約法の第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)を根拠に裁判に踏み切ったようです。

労働契約法第20条とは、同一の使用者と労働契約を締結している、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止するルールです。
今回の提訴は、この改正労働契約法を根拠とした初めての裁判となります。

提訴したのは、鉄道会社の労働組合員2人と、定年になった組合員2人でこの4人は、3カ月から1年の契約を更新しながら駅売店の仕事をしてきたようです。
訴状によると、正社員と非正規労働者の仕事の内容は同じなのに、賃金面で次のような格差があるとしています。
①賃金・・・正社員が『月給制』に対し、非正規は『時給制』
②賞与・・・正社員が年間約150万円に対し、非正規は59万円または26万円
③退職金・・・正社員にはあるが、非正規には無い


因みに、労働契約法第20条は、次の通りです。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

なお、このルールの判断基準ですが、労働局の資料では、次のように解説されています。

対象となる労働条件は、一切の労働条件について、適用されます。
賃金や労働時間等の狭義の労働条件だけでなく、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生など、労働者に対する一切の待遇が含まれます。

労働条件の相違が不合理と認められるかどうかの判断は、
① 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
② 当該職務の内容および配置の変更の範囲
③ その他の事情

を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されます。
とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、上記①~③を考慮して、特段の理由がない限り、合理的とは認められないと解されます。

以上の通り、今回の提訴の労働者のケースでは、賃金面では確かに格差があるように見えますが、労働条件の相違が不合理と認められるかどうかについては、当該業務の業務内容やこの業務に伴う責任の程度配置の変更の範囲等が判断基準となります。
これらの基準が、総合的に評価・判断されることになると予想されますので、司法がどのように判断するのか、非常に興味深いところですし、これからの同様の事案の重要な判断材料となると思いますので、判決の行方を注視したいと思います。

最高裁判決「心の疾患、社員の申告なくとも会社に配慮義務」?

平成26年3月24日に興味深い最高裁判決がありました。

それは、会社員が過重労働でうつ病になった場合、過去の精神科通院歴などを会社に申告していなかったことが社員側の過失に当たるかが争われた訴訟の上告審判決です。
最高裁第2小法廷は、「メンタルヘルスは申告がなくても会社側に安全配慮義務がある。」と判断し、過失相殺などを理由に損害額を2割減額した二審判決を破棄し、審理を東京高裁差し戻しとしたものです。

争点は、①労働者の精神科への通院歴を申告していなかったため、会社側がうつ病の発症回避などの対応を取れなかったこと、②業務を離れてもうつ病が完治せず、もともと労働者に固有の問題があったことなどを理由に損害額の減額ができるかということでした。

二審判決では、労働者が精神科への通院歴の申告を怠ったことを過失と認定し、過失相殺を理由として損害額の2割を減額する判決を下していました。

今回の最高裁判決では、この二審判決を破棄し、会社側について、「労働者の申告がなくても労働環境などに十分な注意を払うべき安全配慮義務を負う」と判断し、損害額の再計算のため審理を東京高裁に差し戻したということでした。

注目すべきは、判決の中で、通院歴や病名について「プライバシーに関わり、人事考課にも影響しうる情報で、通常は知られずに働き続けようとする。」と指摘した点で、仮に過去の精神科への通院歴を隠して、雇い入れた労働者であったとしても、仮にその労働者がうつ病を発症した場合、本人の過失は認められないということになる点と思います。

確かに過重労働が原因でのうつ病発症というのは、会社側が提供する労働環境に問題がありますので、過去の通院歴で仕事量や内容を調整するというのは主旨に反するということだとは思います。
しかし、会社側にも事前にそのような情報(通院歴や罹患歴など)があれば、対応が異なったという主張があるのも尤もというところもあると思いますので、少々厳しい判決かなと感じた次第です。

いずれにしても、今後、本人からの過去の病歴の申告等がなくても会社側に全面的に安全配慮義務があるということは確認されたわけですので、今まで以上にメンタルヘルス対策の向上ということが必要になるのは明らかであり、労働者個々の状況を十分に把握し、うつ病等の対策をしていくことが肝要ということなのかもしれません。

派遣労働者の直接雇用の申込義務について

労働者派遣法(正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」という)の第40条の4に次のような条文があります。

【法第40条の4】
派遣先は、第35条の2第2項の規定による通知(いわゆる『抵触日の通知』)を受けた場合において、当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第40条の2第1項の規定に抵触することとなる最初の日(『抵触日』を指す)以降継続して第35条の2第2項の規定による通知を受けた派遣労働者を使用しようとするときは、当該抵触することとなる最初の日の前日までに、当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し、労働契約の申込みをしなければならない。(『義務規定』)

つまりこれは、『抵触日の通知』を受けた派遣労働者を『抵触日』を過ぎて、さらに継続して雇用する場合、その派遣労働者が直接雇用を希望するのであれば、派遣先事業主は直接雇用の申込を行わなければならないという義務を定めているということになります。

この対象となる労働者ですが、『派遣受入期間に制限のある業務』と『派遣受入期間に制限のない業務(いわゆる専門26業務)』で異なります。
①『派遣受入期間に制限のある業務』の場合
 派遣受入期間の制限に抵触する日(当該業務に3年間継続して受入れた日)以降も派遣社員を使用しようとするときは、派遣先事業主はその制限に抵触する日の前日までに、「当該派遣労働者であって当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し、雇用契約の申込みをしなければならない」とされています。
②『派遣受入期間に制限のない業務(いわゆる専門26業務)』の場合
 同一の派遣社員を3年を超えて受け入れている場合に、「当該同一の業務に労働者を従事させるため、当該3年が経過した日以後労働者を雇い入れようとするときは、当該同一の派遣労働者に対し、雇用契約の申込みをしなければならない」と規定されています。したがって、派遣労働者を3年を超えて受け入れている場合には、仮にその業務に新たに従業員を雇い入れる場合は当該派遣労働者を優先的に雇入れるよう申込みをすることを義務付けているわけです。

この規定を踏まえて、最近上記①に該当するケースがあり、派遣労働者を直接雇用する契約が発生しましたが、この際に派遣会社より『紹介料』の見積書が派遣先事業主の元に届きました。
当然、事業主としては派遣労働者を引き抜くようなことになるので、この紹介料は支払わなければならないと思っていたようですが、金額が妥当なのかということで相談がありました。
詳しく確認すると、『抵触日の通知』も提出されており、明らかに直接雇用の申込義務が発生している案件でしたので、『紹介料』はあり得ないのではと説明したところ、派遣会社の担当者は『あくまでもお願いです。』という説明に変わって、大きくトーンダウンするということがありました。

小生の知る限り、派遣先事業主でも『労働者派遣法』に精通した事業主は皆無で今回のようなケースでは、『移籍料』的な意味合いで金銭が発生するものと思い込んでいる方が大勢を占めていると思います。
当然、今回の案件ではこの派遣会社への信用が、大きく損なわれる結果となったのは言うまでもありません。

このようなケースは、法律を知らなければ払ってもらえるので、当然のように請求しても良いということは通らないと思いますが、派遣会社としても派遣労働者を引き抜かれるという側面もあり、同情の余地もあるかなと思います。
しかし、これによって信用を失墜することになったことを考えると、やはり適法に対処するのが一番かなと改めて思った事件でした。

パートタイム労働法の改正

先日の日経新聞1面にパートタイム労働法の改正案が審議に入る見込みという記事が掲載されていましたが、皆さんこの法律をご存知でしょうか?
このパートタイム労働法とは、平成20年4月に改正施行された法律で、正式な法律の名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」というものです。
今回改正が審議されようとしているこの法律のポイントを簡単にご説明したいと思います。

パートタイム労働者を雇用している事業主は、
①雇い入れの際に文書等により「昇給の有無」、「賞与の有無」、「退職金の有無」を明示しなければならない。(その他の労働条件の文書明示は努力義務)
②パートタイム労働者から請求されたときは、その待遇を決定するにあたって考慮した事項を説明しなければならない。
③通常の労働者(常勤者)への転換を推進するため、転換制度の整備をする等の措置をとらなければならない。

パートタイム労働者と通常の労働者の均衡(バランス)のとれた待遇のために
④賃金は通常の労働者との均衡を考慮しつつ、職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、決定するように努めなければならない。
⑤教育訓練は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その職務の内容、成果、意欲、能力及び経験等に応じ、実施するように努めなければならない。
⑥福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)の利用の機会を与えるように配慮しなければならない。

さらに、パートタイム労働者の職務の内容(業務の内容と責任の程度)が通常の労働者と同じ場合は、
⑦人材活用の仕組みや運用等が一定期間同じ場合、その期間の賃金は通常の労働者と同じ方法で決定するよう努めなければならない。
⑧職務を遂行に必要な知識や技術を身につけるための教育訓練は、通常の労働者と同様に実施しなければならない。

さらに、退職までの長期にわたる働き方が通常の労働者と同じ状態のパートタイム労働者については、
⑨通常の労働者と就業の実態が同じと判断され、賃金の決定をはじめ教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他のすべての待遇について、パートタイム労働者であることを理由に差別的に取り扱ってはならない。

また、パートタイム労働者と事業主の間に苦情や紛争が発生した場合は、
⑩パートタイム労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関に苦情の処理をゆだねるなどして、自主的な解決を図るように努めなければならない。

以上がパートタイム労働法のポイントと言えるかと思います。

今回改正にかかる審議の中心は、上記⑨の対象者の拡大にあるようです。

上記⑨の対象者とは 、
①職務の内容が同じ
②人材活用の仕組みや運用などが全雇用期間を通じて同じ
③契約期間が実質的に無期契約

この3要件すべてにあてはまるパートタイム労働者を指します。
この対象者に該当した場合、通常の労働者と就業の実態が同じと判断され、

賃金の決定をはじめ教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他のすべての待遇について、パートタイム労働者であることを理由に差別的に取り扱うことが禁止されています。

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この3要件のうち、③の契約期間が実質的に無期契約という要件を除外することが検討され、この差別的取り扱いが禁止される対象者が拡大されるということです。

元々、パートタイム労働法は、パートタイム労働者の労働条件が通常の労働者に比較して低くなりがちである状況の改善を目指した法律です。
しかし、実際にはそれがなかなか改まらないという現実があって改正議論になっらものと思われますので、今後の改正案に注目していきたいと思います。

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