Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

労働基準法

フレックスタイム制の導入について

変形労働時間制の一形態として、フレックスタイム制というものがあります。
フレックスタイム制とは、始業と終業の時刻を労働者自身が決定し、労働者自身のライフスタイルとの調和を図りながら、効率的に働くことを可能としながら、労働時間のスリム化を目指した制度と言えます。

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一般的なフレックスタイム制は、モデル例のとおり1日の労働時間をコアタイム(必ず勤務する時間帯)とフレキシブルタイム(任意で勤務できる時間帯)とに分けています。
コアタイムは、設定が必須にはなっていませんので、全部の労働時間をフレキシブルタイムにしてもかまいません。
しかしながら、小生の経験上、『仕事の打ち合わせ』や『営業会議』など、みんなが顔を会わせる機会を作ることも企業には必要ですので、やはりコアタイムを設けることは大切なのかなと思います。

では、フレックスタイム制の導入はどのように進めればよいのでしょう。

【採用の要件】
(1)就業規則その他これに準ずるものにおいて、始業及び終業の時刻を労働者にゆだねることを規定する。
(2)労使協定で必要事項を協定する。
 ①対象となる労働者の範囲
 ②清算期間(1か月以内の期間に限る)
 ③清算期間中の総労働時間(清算期間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間を超えないこと)
 ④標準となる1日の労働時間
 ⑤コアタイム(定める場合)
 ⑥フレキシブルタイムに制限を設ける場合は、その時間帯の開始と終了の時刻

つまり、フレックスタイム制を導入するためには、就業規則での規定と労使協定での協定の両方の要件を満たす必要があります。

また、対象者個々で就労する時間が異なりますので、労働時間の過不足という問題も生じます。
超過した場合は、原則当月の賃金支払い時に清算する必要があり、特に法定労働時間を超過した場合は、割増賃金の対象となりますので注意しなければなりません。
逆に不足した場合は、この不就労時間を当月の賃金支払い時に控除する方法と、当月分の所定の賃金は当月分として支払い、不足分を翌月の労働時間に加算して労働させる方法があります。
ただし、建前上、翌月の総労働時間に加算する場合の加算できる限度はその月の法定労働時間の総枠の範囲内に限定されますのであまり現実的ではないかもしれません。

最後に、フレックスタイム制を導入したとしても、時間外労働協定(いわゆる36協定)や使用者の労働時間の把握義務は免除されるわけではありませんので、時間管理は正確に実施しなければならないということは同じと認識すべきと考えます。

賃金債務の消滅時効と『時効の援用』

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皆さんは、借金(債権)に『時効』があることをご存知でしょうか?
民法第167条に規定されている【債権等の消滅時効】が一般的と思います。この時効は10年となっています。
消費者金融等の【商事債権】の場合は、商法第522条で5年と定められています。
労働者の賃金の場合どうかというと、民法の10年ではなく、労働基準法第115条により2年(退職手当は5年)と定められています。
この規定は、労働基準法で使用者側を有利にしているとても珍しいケースと言えます。

では、この消滅時効ですが、どうすれば時効が成立するのかを少しご紹介したいと思います。
賃金債務の弁済期(いわゆる給料日)から2年を経過すると自動的に時効が成立するようなイメージがありますが、法律というのは色々と手続きが必要でして、消滅時効を成立させるには、『時効の援用』という行為が必要になります。

時効の援用とは、債務者が時効の利益を積極的に主張して初めて、時効の利益を得ることになると定められています。
つまり、「この賃金債務は、時効であり、支払うつもりはありません」とはっきり主張する必要があるということです。
このような手続きが必要なのは、時効の利益を享受しないという意思も尊重する必要があると法律が認めているからと言えます。
一般的な使用者は、賃金債務の履行が出来なかったことに負い目を感じているものです。資金繰りが好転したら以前支払えなかった給料を遅れてでも払いたいと思っているものです。
このような気持ちを『時効成立』で支払うことが出来なくなる事態を避けるというのが主旨と言われています。

時効の援用の方法ですが、極めて簡単に言えば相手方(賃金の場合は労働者)に何らかの形で伝えれば良いだけということになります。
しかし、口頭で言っただけでは証拠になりませんので、一般的には「内容証明郵便」を利用して、「時効の援用」を行った日付を明確にする方法が広く用いられています。

ただし、『時効』は、「裁判上の請求」や「差押え」、「催告」をする等により、『中断』させることができますので、実際には消滅時効の期間が過ぎただけでは時効が成立するかどうかは分からないというのが現実です。

賃金債権の場合、実際にはあまり内容証明郵便を送達するようなケースには出会わないように思いますが、『未払い残業手当等』の請求権においても、同様に『時効』の問題が生じますのでそのようなときにはこの制度をよく理解している必要があるかもしれませんね。

「定額残業代制度」の有効性について

昨今、労働時間管理の煩雑さを緩和する目的等で、「定額残業代」の導入を検討する事業主が増加しているようです。
小生の顧問先でも「固定残業手当」などの名目で定額残業代の支給を実施している、事業所がいくつか存在しています。
もちろん、「定額残業代」を導入していたとしても、「労働時間適正把握基準」による使用者の義務が免除されるわけではありませんが、給与計算の煩雑さや支給額の計算ミスのリスクを軽減するという意味では大きな意義があると思います。
また、「定額残業代」を導入したことにより、それまでの実績対比で「所定時間外労働が減少した」という事例もありました。
この会社の場合、「固定残業手当」の対象時間を予め25時間と定め、これを超過したときは超過分の残業手当を追加支給するという仕組みを軸にして制度設計をしましたが、導入後はそれまでの長時間残業は姿を消し、固定残業手当の対象時間の範囲内で収まるようになったのです。
その上、生産性に目立った変化はなかったということで、実は無駄な時間外労働が多かったということが判明したのです。

では、「定額残業代」は、どのようにすれば、適法な制度になるのでしょうか?

割増賃金は、本来時間外の時間に応じて支給するのが原則ですが、定額で支給してもそれで違法となるものではありません。

①「定額残業代」が、就業規則・賃金規程等に残業代として支給するということが明記されていること。
②「雇用契約書」等で「定額残業代」の内容を明記し、労働者本人と個別に合意すること。
③「給与明細」等に残業時間数等を明記すること。

以上の要件を満たし、かつ、定額残業代の対象時間を明確にすること、その時間を超過した場合は、超過分の残業手当を別途支給するなどのルールを明確にしている場合には、「定額残業代」が有効とされます。

つまり、昔ながらの「営業手当」や「管理職手当」に残業手当が含まれるというような、あいまいな規定では認定されず、未払い残業の請求対象になりかねないということなのです。

また、最近では実際の支給明細書の記載に所定時間外労働時間の明記や定額残業手当の対象時間の明記などが要求される例も報告され、制度運用がますます難しくなっているように思います。

「添乗員、みなし労働認めず」の判決について

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平成26年1月24日、最高裁判所の上告審判決で、海外旅行の添乗員について、労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなす「みなし労働時間制」を適用するのは不当として、未払い残業などの支払いを求めた訴えに対し、「労働時間の算定が困難とはいえない」との判断が示されました。

最高裁は、みなし労働時間制の適用について「業務の性質、内容や状況、指示や報告の方法などから判断すべきだ」と指摘し、本件訴訟においては、会社は予め旅程管理に関して具体的指示をしており、ツアー中も国際電話用の携帯電話を貸与し、添乗終了後は日報で報告を受けていたことなどから「労働時間の算定が困難とはいえない」と結論付けたようです。

労働基準法第38条の2(事業場外労働に関するみなし労働時間制)には、次のように規定されています。
『労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。』

これは、労働者が事業場外で業務に従事する場合に使用者の具体的な指揮監督が及ばないために労働時間を算定し難いときがあるが、この場合に、
①所定労働時間のみなし、あるいは、②通常必要とされる時間のみなし
労働時間制により労働時間を算定することが認められているのです。

昭和63年の労働基準局の通達に次のようなものがあります。
「事業場外で業務ん従事する場合であっても、次の場合のように使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はない。
①何人かのグループで事業場外労働する場合で、その中に労働時間の管理する者がいる場合
②無線やポケットベル等で随時使用者の指示を受けながら労働する場合
③事業場において、訪問先、貴社時刻等業務の具体的な指示を受けた後、事業場外で指示どおりに従事し、その事業場に戻る場合」

今回の判決では、
①予め旅程管理に関して具体的指示をしており、
②ツアー中も国際電話用の携帯電話を貸与し、
③添乗終了後は日報で報告を受けていたこと

などから「労働時間の算定が困難とはいえない」としています。
これらは、労働基準局通達で「みなし労働時間制の適用を否定している」ケースとよく似た主旨かなと思われますが、最高裁の上告審判決でこのように結論付けられたことが重要と言えます。
海外旅行(に限らないかな)の添乗員で同じようなみなし労働時間制を利用している旅行会社は結構あると思いますので、今後、同様にみなし労働制を適用している会社は難しい対応を迫られることになるかと思います。

未成年者を雇い入れる場合の年齢証明書類

未成年者や年少者(満18歳未満の者)を雇い入れる場合に年齢確認が必要になることがあります。
このとき、学生証や保険証等のコピーを提出してもらって確認することまで必要なのかということになるとちょっと曖昧になるのが正直なところでしょう。
このようなケースを少しご紹介したいと思います。

18歳未満の年少者の場合は、労働基準法第57条により年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けることが義務付けられています。

また、映画・演劇の子役として満13歳未満の児童を使用する場合(当然、労働基準監督署長の許可が必要)は、修学に差支えないことを証明する学校長の証明を事業場に備え付ける必要があります。
ちなみに、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでは、原則として仕事をさせることは禁止されています。

前置きが長くなりましたが、先日建設業の社長から相談の電話がありました。
内容は、建設現場でのアルバイト募集に見るからに若い少年のような者が応募してきて、使ってほしいというのです。持参した履歴書には、18歳以上である旨の記載があるのですが、念のため年齢を証明できる何かを提出させたほうが良いでしょうか?というものでした。

非常に古い通達ですが、このようなものがあります。

『労働者を雇入れる場合に、使用者が労働者の年齢を確認するにあたっては、一般に必要とされるていどの注意義務を尽くせば足り、その年齢を必ずしも公文書によって確認する義務はないとされています。

つまり、これは誰が見ても外見上年少者ではないかと疑問を挟む余地が全くない者について、その者の自己申告による年齢を基準に判断して使用しても使用者としての義務を怠ったとは言えないとするものです。

このような通達がありますので、外見上18歳を超えていると思われる者については、証明書類の提出まで求める必要はありませんが、今回の相談のように見るからに若いかなと疑念を抱く程度の者については、やはり公文書に類するもので確認されるのがベターかなというアドバイスなるかと思います。

特に建設業の場合、年少者使用に対する法的な規制が多いので、十分に注意をする必要があるかなと思います。

電車に乗務する予備勤務者の特例

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昨日(平成26年1月3日)の早朝に出火した東京有楽町でのパチンコ店舗火災により、新幹線ダイヤが大幅に乱れたことは、ニュース等で大きく取り上げられていたので、ご存知の方も多いと思います。
家族旅行で東京を訪れていた私どもは、この日の午後、東京駅八重洲口のみどりの窓口へ新幹線の指定券購入のために到着したとき、はじめて火災事故が発生していることを知りました。
約5時間もの長い時間東海道新幹線が、運転を見合わせていたそうで、当然指定券は買い求めることはできず、不安を抱えながら自由席での帰阪となりました。
幸い東海道新幹線は東京駅が始発でしたので、数本の新幹線の発車を見送ることにはなりましたが、無事自由席を3席確保し、4時間弱の時間は要しましたが、無事帰阪することができました。
東京を出発する時刻が午後4時頃になり、運転再開から数時間が経過していたので比較的順調に下りの便が発車していたのが幸いしたように思います。
新大阪に到着し、コンコースに降りると、改札の中が人で埋まっていて、自動改札を出ることもままならないほどの混雑ぶりで、もし始発駅ではなく、途中駅からの出発だとどうなっていたかと思うとぞっとしたものでした。

ところで、そんなダイヤの混乱を目の当たりにして、労働基準法の一つの特例を思い出しましたので、少し紹介したいと思います。
それは、労働基準法第32条の2「1箇月単位の変形労働時間制」の特例である、「予備勤務者の特例」というものです。

これは、労働基準法施行規則第26条に規定する『運輸交通業において列車、気動車又は電車に乗務する労働者で予備の勤務に就くものについては、1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない限りにおいて、労使協定、就業規則等により、法定労働時間を超える週又は日を特定することなく、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させることができる。』と定めている特例です。
この条文を分かり易く言い換えますと、次のようになります。
鉄道等に乗務する労働者で予備勤務者については、労働基準法で定める1箇月単位の変形労働時間制を労使協定や就業規則等で事前に定めることなく、いつでも実施することができるということになります。

これは、まさに昨日のように大きくダイヤを乱す事故が発生した場合や本来乗務する予定であった労働者の不測の傷病等のために列車・電車の運行が阻害された際に、臨時列車等の対応や代替要員である運転士を用意するために『予備勤務者』を準備するが必要があるために規定されたものです。
このため、鉄道会社にとって極めて有利な変形労働時間制の特例となったようです。

そこで一つ疑問ですが、運輸交通業の中でわざわざ列車、気動車又は電車と所謂鉄道を指定しているのはどうしてか?
船やバス、航空機の予備勤務者の場合はどうなるのか?
というものです。

答えは、特例の適用はNoです。
この特例は鉄道のみの規定であり、航空機や船、自動車には適用されないものとなっています。
旅客を運ぶ運輸交通業という意味合いでは、航空機なども適用されてもと思いますが、労働基準法はこれを適用するという解釈はしていません。
何故かというと、この特例の適用は軌道を利用した交通手段かそうでないかということが基準になっているのです。

つまり、鉄道の場合、不慮の事故や運転士の傷病のために列車がその場にとどまるようなことになると、関係する路線のダイヤ全体が大混乱する可能性があります。
線路の場合は、事故車両を追い抜いて行くことができないということも起こりますので、臨時列車等により代替輸送を行ったり、代替要員を使って列車を動かすということが必要となりますので、適当な場所に人員と機材を配置しておく必要があった訳です。
しかし、航空機や船、自動車の場合は、動けなくなった機材のために次の機材が影響を受けるということはほとんど無いということになります。動かない機材を追い越せないということはありませんからね。

以上のような理由から、特別に鉄道についてのみこのような特例が準備されたということのようです。
乱れきったダイヤで運行されていた新幹線の中でこの特例をつい思い出しましたので、特に参考にはならないかもしれませんが、ご紹介させていただきました。
ではまた。

「企画業務型裁量労働制」の適用拡大について

先日、新聞紙上に厚生労働省は「裁量労働制」を拡大するという方針を固めたという記事が掲載されておりました。
具体的には、企画業務型裁量労働制の適用範囲を拡大するという主旨の法改正が、今後国会で審議されることになるのかなと予想されます。

社労士である我々には、「裁量労働制」という制度は馴染みのあるものですが、一般人にはお世辞にも理解されているとは言い難いと思います。

本日は、裁量労働制について、少々ご紹介させて頂きたいと思います。

裁量労働制には、「企画業務型」と「専門業務型」の2種類があります。
法整備がなされてから比較的期間の経っている「専門業務型」は、適用する企業も結構増えているようですが、今回の報道の主役である「企画業務型」はいっこうに適用率が上がってきてはいないようです。

「企画業務型裁量労働制」とは、それぞれに労働基準法で認められる『事業場』の『業務』に『労働者』を就かせるときに、その事業場に設置された労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができる制度です。

◎『事業場』とは、『対象業務』が存在する企業等の本社・本店或いはそれに準ずる決定機関としての事業場であること。
◎労働基準法で認められる『業務』とは、次の全てに該当する業務であること(『対象業務』)
①事業の運営に関する事項についての業務であること。
②企画、立案、調査及び分析の業務であること。
③業務の性質上これを適切に遂行するにはその方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること。
④業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること。
◎労働基準法で認められる『労働者』とは、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であり、且つその業務に常態として従事している労働者であること。

以上のとおり、対象事業場である『事業場』の対象業務である『業務』に対象労働者の範囲にある『労働者』を就かせたときに限り、実際の労働時間に拘わらず、その事業場における『労使委員会で決議した時間』を労働したものとみなすことができることになるのです。

さらに、この制度を導入するには、労使委員会が設置された事業場において、この委員会が委員の5分の4以上の多数による議決により次の事項に関する決議をし、使用者がその決議を所轄労働基準監督署に届け出ることが必要となります。
◎労使委員会の決議事項
①対象業務
②対象労働者の範囲
③みなし労働時間(1日あたりの時間数)
④対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置
⑤対象労働者からの苦情の処理に関する措置
⑥労働者の同意の取得及び不同意者への解雇その他の不利益取扱の禁止

その上、制度導入から6か月毎に1回、対象労働者の健康・福祉確保の措置に関する実施状況についての『定期報告』を所轄労働基準監督署に行う必要があります。

という具合に、非常に面倒且つ複雑な手順を踏んで導入する必要があり、さらに導入してからも半年毎に『定期報告』が必要という制度になっています。
これらが一向に導入率が上昇しない原因ではないかと思われます。

また、労働者の範囲についても、『対象業務』を『対象労働者の範囲』に該当する労働者に限定しており、労働者のスキルもその適用要件としている点でも相当にハードルは高いと言えます。

今回の厚生労働省の『裁量労働制の拡大』という方針決定では、この導入手順・運用等について規制緩和がされることが予想されますが、裁量労働制には著しく過酷な労働条件を労働者に科す場合もありますので、この辺のバランスのとれた法改正になるような議論を期待したいところです。

「懲戒処分」を適用するには。

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労働者と企業の間で締結される労働契約によって、労働者には企業の指揮命令により業務を遂行するという義務が生じます。また、企業にはその対価としての労働者に対し賃金支払義務(債務)が生じることは言うまでもないでしょう。
この労働契約には、いくつかの付随義務が同時に生じると考えられています。これが、「業務専念義務」や「企業秩序遵守義務」といったものです。
これらは、労働者が企業のルールを守らなければならないとする根拠のような役割を果たしており、ルール違反を犯した労働者に対して罰(懲戒処分)を与える根拠となるものと考えられてきました。

企業の「懲戒権」の行使については、大別して2つの説があります。
①固有権説と②契約説の2つがこれにあたります。

では、具体的に両者の違いはどのようなものでしょう。

先ず、「固有権説」ですが、これは労働契約締結により企業側が「企業秩序の維持と規律を遵守する義務(つまりは、「企業秩序遵守義務」に当たるもの)」を固有的な権利として有することを意味し、特別な根拠規定がなくても懲戒処分を科すことができるとする説です。

これに対し、「契約説」では、懲戒処分は労働契約において、具体的に懲戒の基準や内容を合意することが必要とする説であり、懲戒処分の明確なルール化が必要とするものです。

言いかえると、「固有権説」では、労働契約自体に懲戒権が固有の権利として認められるため、具体的な罪刑は定める必要が無いということになりますが、「契約説」では、合意の原則に立った契約として懲戒権が存在するため、具体的な罪刑を事前に労使で合意する必要があるということになります。
つまり、自然法的に懲罰ができる「固有権説」に対し、罪刑法定主義に則った刑罰規範的な「契約説」ということになります。

現在、最高裁判例では、どちらかというと「固有権説」に近い立場の理論構成をしつつも、懲戒処分の適用に関しては、①予め就業規則等で懲戒内容と懲罰の内容を定めること、②就業規則の内容を労働者に周知することを基本的な要件としています。

結論としては、企業が固有的に有する「懲戒権」は認められるが、懲戒を科す場合は、予め懲戒事由を明確にし、労働者に周知する必要があるということになります。

つまりは、企業は労働者を雇い入れる際に、既に就業規則等に懲戒処分のルールを明文化し、周知する必要があるということになります。
結果的には、「契約説」の立場に立って準備することが無難ということになりますね。

『請負契約』って何?

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先日放送された『ダンダリン 労働基準監督官』(日本テレビ系TVドラマ)で、一般的な雇用契約の社員を請負契約に契約変更し、賃金の大幅カットを実施した事業主を竹内結子さん演じる労働基準監督官が懲らしめるというエピソードがありました。
結構、専門的な内容で一般の視聴者がどれ程理解できたのか、少々疑問も残りますが、請負契約と雇用契約の違いについて少しコメントをしたいと思われます。

いわゆる雇用契約とは、事業主が労働者と雇用契約を行い、事業主等の指示命令の下で労働者が役務の提供を行い、その見返り(報償)として賃金を受け取るという形態のものを言います。

では、請負契約とはどんなものでしょうか。

適正な請負契約を維持するためには、注文者(雇用契約の場合の雇用主にあたる)は請負業者(個人事業者を含む)に対して、①労務管理上の独立性及び②経営上の独立性を確保させることが必要となります。
具体的には、次のような要件となります。
【労務管理上の独立】
ア.請負業務の遂行方法に関する決定は請負業者自身が行い、注文者の指示命令は受けないこと。
イ.請負業務を行う時間(作業時間)や、休憩時間、休日は請負業者自身が決定し、注文者から作業時間・休憩・休日の具体的な指示は受けないこと。
ウ.業務の範囲(完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容など)が「請負契約書」などで明確になっていること。
エ.請負業務遂行に関し、労働者を使用する場合は、その労働者の秩序維持・必要な設備・備品の調達、労働時間管理等は請負業者が行うこと。(必要な人員・配置・人選その他について注文者の指示・承諾を受けることなく決定していることを含む)
【経営上の独立】
ア.請負業務遂行に必要とする資金を全て自らの責任で調達・支弁していること。
イ.業務の処理について、民法・商法その他の法律に規定された事業主としての責任を負うこと。
ウ.単に肉体労働を提供するものでないこと。(次の①又は②に該当すること)
①請負業務遂行に必要な機械、設備もしくは器材又は材料等は、請負業者の責任と負担で準備・調達すること。
②請負業者が自ら企画し、または請負業者の持つ専門的な技術・ノウハウによることで請負業務が処理されること。)

以上の通り、請負契約はこれを適正とするにはかなり高いハードルがあることになります。
ダンダリンでは、比較的簡単に、それまで雇用してきた労働者との労務提供に係る契約を「請負契約」=「個人事業主」というように変更し、あたかも適法というような件がありましたが、労働基準監督官が雇用契約書のみを見て、これは個人事業主と言い切ってしまうところなど、とても疑問が残ったように思います。
つまり、それほど簡単ではないとうのが本音であり、ましてや元々労働者として雇用していた人たちを請負契約に変更して、労働者性を否定することは相当に困難と言わざるを得ないと思いますので、ドラマの主旨にはかなり無理があったかなというのが感想です。

それはそうと、この指南をしたのが、社会保険労務士という設定になっていましたが、同じ社会保険労務士の立場から言わせていただくと、あまりに幼稚な提案であり、このような提案をしている者が、労務の専門家というのは、甚だおこがましいと言わざるを得ないと思ったのが本音でした。

もう少し、現実的な脚本(設定)を望みたいものです。

整理解雇の仕方

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世間的には景気低迷が一段落したというような風潮がありますが、大阪の街には未だ不景気が停泊しているように思われる今日この頃です。
つい先日も、社会保険料の滞納についての相談があって、リストラなどのときの注意事項について説明させていただいたところです。

本日は、その中でリストラ手法の一つ『整理解雇』の手順について少し紹介したと思います。

①人員整理の必要性
②解雇回避努力義務の履行
③解雇対象者の人選基準
④手続きの妥当性

この4つの要件を『整理解雇の4要件』と言います。

これをかいつまんで解説しますと、次のようになります。
まず第1の要件『人員整理の必要性』ですが、「相当の経営上の必要性」があると認められなければならない。
第2の要件『解雇回避努力義務の履行』ですが、労働者の解雇という選択をする前に十分な回避努力を講じていることが必要とされてます。例えば、役員報酬の減額や新規採用の抑制、希望退職の募集、配置転換・出向といった対策をとった上での整理解雇の選択ということが必要とされています。
次に第3の要件『解雇対象者の人選基準』とは、対象者の人選が合理的であり、公平でなければならない。つまり、好き嫌いみたいな人選に見えるようでは無効と言われる可能性があると思います。
最後に『手続きの妥当性』ですが、これは、整理解雇の実施については手続きの妥当性が重要視されますので、いかに必要性や人選基準・解雇回避の努力が十分に行われていても、整理解雇を進めるうえでの「説明責任」や「労使協議」、「労働者の納得」がされていないと全てが無効とされる場合があると言うことになります。

わたくしの事務所の直接の顧問先の話しではありませんが、近々この4要件の説明をしなければならないような案件を抱えておりますが、そろそろ拡大戦略などのお話しができるような経済環境になってほしいものです。

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