Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

労働基準法

労働基準法の一部を改正する法律案(第189国会)

先週、平成28年4月改定予定の労働基準法の改正法案が国会に提出されました。
昨年より話題になっていた労基法の改定案の内容が明らかになったので、ご紹介したいと思います。

目的としては、長時間労働を抑制するとともに、労働者が健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備することとされています。

概要は具体的には次のようになります。

Ⅰ 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等

(1) 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

 • 月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。(平成31年4月施行)

(2) 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設

 • 時間外労働に係る助言指導に当たり、「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。

(3) 一定日数の年次有給休暇の確実な取得

 • 使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。
  (労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)

(4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進

 • 企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組を促進するため、企業全体を通じて一の労働時間等設定改善企業委員会の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができることとする。

Ⅱ 多様で柔軟な働き方の実現

(1) フレックスタイム制の見直し

 • フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。

(2) 企画業務型裁量労働制の見直し

 • 企画業務型裁量労働制の対象業務に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するとともに、対象者の健康確保措置の充実や手続の簡素化等の見直しを行う。

(3) 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
 
 • 職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
 • また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。


施行期日:平成28年4月1日(ただし、Ⅰの(1)については平成31年4月1日)

パートタイム労働法の改正について

平成27年4月よりパートタイム労働法が改正になります。
比較的地味な法律ですので、あまり話題に上っておりませんが、改正に向けて無視できない法律ですので少し紹介したいと思います。

主な改正点は次の通りです。

1.パートタイム労働者の公正な待遇の確保

①正社員と差別的取り扱いが禁止されるパートタイム労働者の範囲の拡大

 【現行】
 (1)職務の内容が正社員と同一
 (2)人材活用の仕組が正社員と同一
 (3)無期労働契約を締結している
 【改正後】
 現行法の(1)(2)に該当すれば、賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用をはじめすべての待遇について正社員と差別的取り扱いが禁止となります。

②『短時間労働者の待遇の原則』の新設

パートタイム労働者と正社員の待遇を相違させる場合は、その待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組、その他の事情を考慮して、不合理であってはならないとするパートタイム労働者の待遇の原則が新設されます。

2.パートタイム労働者の納得性を高めるための措置

①パートタイム労働者を雇い入れたとくの事業主による説明義務の新設

パートタイム労働者を雇い入れたときは、実施する雇用管理の改善措置の内容を事業主が説明しなければなりません。
例えば、雇い入れの際に賃金制度や教育訓練の有無、福利厚生施設の利用範囲・正社員への転換推進措置の有無などの説明が必要であったり、パートタイム労働者から説明を求められた場合、賃金制度の仕組みや福利厚生施設が利用できない理由などを説明する義務が発生します。

②パートタイム労働者からの相談に対応するための体制整備の義務の新設

3.パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設

①厚生労働大臣の勧告に従わない事業主の公表制度の新設

パートタイム労働法による勧告に対して従わない事業主名が好評できることになります。

②虚偽の報告などをした事業主に対する過料の新設

事業主がパートタイム労働法の規定に基づく報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合、20万円の過料に処せられます。

以上のように、平成27年4月以降はパートタイム労働者の雇用について、従来より厳しい規制が課せられることとなります。
これらがどのように取り締まられるかは、まだ分かりませんが、4月以降パートタイム労働法関連の調査や報告要請などがあるかもしれませんので、パートさんを多く使用している事業所ではご注意ください。

「1年単位の変形労働時間制」導入に関する注意事項

労働基準法に規定する『変形労働時間制』を分類すると4種類の制度に分けられます。

Ⅰ.1箇月単位の労働時間制(労基法第32条の2)
Ⅱ.1年単位の変形労働時間制(同第32条の4、第32条の4の2)
Ⅲ.フレックスタイム制(同第32条の3)
Ⅳ.1週間単位の非定型的変形労働時間制(同第32条の5)

本日は、その中でも最もポピュラーな制度と思われる『1年単位の変形労働時間制』の導入に係る注意事項をご紹介したいと思います。

【1】制度の意義

『1年単位の変形労働時間制』は、1箇月を超え1年以内の期間を平均して1週間あたり40時間を超えないことを条件として、主に季節によって、繁閑の差が大きい事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより、効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的に設けられたものです。

【2】制度の要件

1.労使協定の締結
 次の事項のすべてを労使協定による定める必要があります。

①対象労働者の範囲
  法令上、対象労働者の範囲に制限はありませんが、その範囲は明確にする必要がある。

②対象期間及び起算日
  対象期間は1箇月を超え1年以内の期間で設定します。また、起算日も設定する必要があります。

③特定期間

  上記②の対象期間中の特に業務の繁忙な期間を特定期間として定めることができます。もちろん、その必要がなければ定めなくてもかまいません。

④労働日及び労働日ごとの労働時間
  上記②の対象期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で定める必要があります。また、後述の【2.労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度】にも適合する必要があります。

⑤労使協定の有効期間
  1年単位の変形労働時間制を適切に運用するために対象期間と1年程度とすることが望ましいとされています。

2.労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度

①対象期間における労働日数の限度(対象期間が3箇月を超える場合)
  対象期間が1年の場合・・・280日
  対象期間が3箇月を超え1年未満の場合・・・280日×(対象期間の歴日数/365日)

②対象期間における1日及び1週間の労働時間の限度
  ㋐1日の労働時間は10時間、1週間の労働時間は52時間が限度となります。
  ㋑対象期間が3か月を超える場合は、次のいずれにも適合しなければなりません。
    ・労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは3週以下
    ・対象期間を3箇月毎に区分した各期間において労働時間が48時間を超える週数は、週の初日で数えて3回以下

③対象期間及び特定期間における連続労働日数の限度
  ㋐対象期間・・・連続労働日数の限度は6日間
  ㋑特定期間・・・連続労働に数の限度は1週間に1日の休みが確保できる日数(12日

3.労働日及び労働日ごとの労働時間の特定の特例

 労働日及び労働日ごとの労働時間の定め方は、①対象期間全てについて定める方法と②対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分して各期間が始まるまでに特定する方法の2つがあります。

 上記②の1箇月以上の期間毎に区分する場合は、次の要領で労働日・労働時間を労使協定に定めます。
  ㋐最初の期間における労働日及び労働日ごとの労働時間
  ㋑上記㋑以外の期間における労働日数及び総労働時間
   なお、㋑各期間の初日の30日前に各期間における労働日及び労働日ごとの労働時間を労働者代表等の同意を得て書面で定める必要があります。

4.所轄労働基準監督署への届出

 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合は、様式第4号により所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。


以上の通り、1年単位の変形労働時間制は、変形労働時間制の中でも、かなり規制の多い制度と言えます。
上記以外にもここでは記載しきれない規制がありますので、実際の導入の際には十分要件を確認されることをお勧めします。

また、規制が多いということは、それだけ過酷な労働条件になりやすい制度とも言えます。
導入の際には、運用を含めて充分な検討が必要ということだと思います。


 

労働契約法第18条(有期雇用契約の無期転換規定)の特例法成立

「アベノミクス解散」で多くの法案が廃案になる中、春の通常国会から審議が継続していた労働契約法の特例法が成立し、さっそく公布されました。

労働契約法第18条では、「同一の労働者との間で有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合は、労働者の申込により、無期労働契約に転換できる。」と規定されています。
これは、二つ以上の有期労働契約が更新されて、通算5年を超えた場合、労働者が希望すれば(申し込めば)、無期労働契約に転換しなければならないことを義務付けています。

例えば60歳で定年を迎えた労働者を嘱託再雇用し、1年毎の有期労働契約で更新を続け、65歳に到達したとします。
この労働者が優秀であるため更に雇用継続した場合でも、この労働契約法第18条の5年超の規定が適用されることになり、無期労働契約になる可能性が発生するわけです。

このようなケースでは、この労働者は60歳の定年も既に経過し、65歳までの再雇用期間も経過することとなり、実質的に定年の規定が適用されないこととなります

上記の例を踏まえた上で、今回の「特例法」の内容を解説したいと思います。

【特例法の主な内容】

①特例の対象者

 Ⅰ)「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く高度専門的知識等を有する有期雇用労働者
 Ⅱ) 定年後に有期契約で継続雇用される高齢者

②特例の効果

 特例の対象者について、労働契約法に基づく無期転換申込権発生までの期間(現行5年)を延長
  →次の期間は、無期転換申込権が発生しないこととする
   上記①-Ⅰの者: 一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限:10年)
   上記①-Ⅱの者: 定年後引き続き雇用されている期間

※特例の適用に当たり、事業主は、
   上記①-Ⅰの者について、労働者が自らの能力の維持向上を図る機会の付与等
   上記①-Ⅱの者について、労働者に対する配置、職務及び職場環境に関する配慮等
  の適切な雇用管理を実施することとしている。

【特例法の施行期日】 平成27年4月1日(予定)

【無期転換ルールの特例の仕組み】

①事業主による計画の作成・・・・対象労働者に応じた適切な雇用管理に関する事項を計画として策定する

②申請・・・厚生労働大臣に雇用管理計画を申請する

③認定・・・基本指針に沿った対応が取られると認められれば認定される

④有期労働契約の締結・・・高度専門労働者や定年後引き続いて雇用さる者と有期契約を締結

⑤無期転換ルールの特例適用
 Ⅰ:高度専門労働者・・・プロジェクトの期間中は、対象労働者について無期転換申込権は発生しない(ただし10年を上限)
 Ⅱ:定年後引き続いて雇用される者・・・定年後引き続いて雇用されている期間中は、対象労働者について無期転換申込権は発生しない

※なお、雇用管理に関する計画の申請の方法については、まだ具体的な方法が明示されていませんが、近々明らかになっていくものと思われます。

この臨時国会では、上記のような内容で特例法が成立しました。
上記の例は、特例法ではⅡのケースにあたりますが、多くの企業が採用している再雇用制度ですので、今後、特例法を適用するための計画申請のニーズが高まるものと予想されます。

改正安全衛生法(平成26年6月25日公布)のストレスチェックの義務化の施行日が平成27年12月1日に決定

平成26年の通常国会で成立した改正安全衛生法(平成26年6月25日公布)におけるストレスチェックの義務化の施行日が平成27年12月1日に決定しました。
およそ1年余り後に事業主による労働者に対するストレスチェックの実施が義務付けられることとなります。

実施義務の具体的な内容は次の通りです。

常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが事業者の義務となります。(但し、労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務となります。)
→ストレスチェックの実施者は今後政令で決定されますが、医師・保健師・看護師・精神保健福祉士等が含まれる予定。
 また、ストレスチェックの頻度も今後政令で定められる予定ですが、定期健康診断同様「1年毎に1回とする」ことが想定されています。

❷検査結果は、検査を実施した医師、保健師等から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供することは禁止されます

❸検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することが事業者の義務となります。また、申出を理由とする不利益な取扱いは禁止されます。
→「一定の要件」とは、高ストレスと判定された者と想定されていますが、こちらも今後の政令で定められます。

面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置を講じることが事業者の義務となります。
→「就業上の措置」とは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を行うこと等が挙げられています。

来年の12月1日から1年以内毎に1回、ストレスチェックの実施が義務付けられることとなりますので、労働者数が50人以上の事業所の事業者は十分に注意が必要になるかと思います。

『労働時間適正把握基準』について

労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する義務を使用者が有しているということは疑義のないところと思いますが、ではどのように管理することが適正と言えるのかということまでは比較的曖昧になっていることと思います。

最近、そのような質問を顧問先企業の担当者より頂きましたので、少々その基準についておさらいしてみたいと思います。

平成1346日基発339号の通達に『労働時間適正把握基準』というものがあります。

こちらには、次のように時間把握の基準が記載されています。

1.適用の範囲
 本基準の対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場とすること。
 また、本基準に基づき使用者が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、いわゆる管理監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者を除くすべての者とすること。
 なお、本基準の適用から除外する労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

 以上のように、適用の範囲を定めており、いわゆる管理監督者等は適用除外とされているように見えますが、 なお書き以降に「本基準の適用除外になる労働者についても健康確保を図る必要から使用者に労働時間管理の責務を認めていますので、結局はすべての労働者に対してこの義務を有しているということになりそうです。

2.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
 使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
 ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること
 イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
 上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
 ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
 イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
 ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
(4)労働時間の記録に関する書類の保存
 労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存すること。
(5)労働時間を管理する者の職務
 事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。
(6)労働時間短縮推進委員会等の活用
 事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間短縮推進委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。


 以上のようにかなり細かい時間管理の方法を定義しています。
特に、労働時間の把握は原則として使用者自身が現認することを求めており、タイムカードやICカード等による確認方法は代替措置として規定しています。
 また、自己申告制により労働時間を把握するというやり方についても、使用者が労働者の自己申告に圧力をかけたり、不正な行為を行わないように歯止めをかけるような基準を設定しています。


 労働時間の管理については、何かと問題や紛争の火種になりやすいので、きめ細かい配慮を行う必要があるということですね。

【高度専門職】の労働時間規制の撤廃

今朝の新聞報道によると、厚生労働省は平成26年5月27日に「高度な専門職」に従事する労働者で年収基準を超える者について、労働時間規制の対象外とする方針を固めたようです。
第1次安倍政権で導入を検討された『ホワイトカラーエグゼンプション』に類似するもので、労働者の報酬を『仕事の成果』に対してだけに応じて支払うということを志向するものと言えるかもしれません。

同法案については、ごく最近も『残業代ゼロ法案』と揶揄されて、やはり導入は見送られるのではないかと噂されていましたが、一転方針転換に至ったということのようです。

厚生労働省は、早ければ来年の通常国会に労働基準法改正案を提出し、平成28年4月にも導入をするという方針とのことです。

なお、同省が新制度の対象とする職種は、次の通りです。(あくまでも案として)
①為替ディーラー
②資産運用担当者
③経済アナリスト

産業競争力会議が適用対象にするよう求めている『企業の中核部門で働く人』などは自分で労働時間を配分できる『裁量労働制』の適用拡大で対応する方針のようです。

一方、産業競争力会議が示す修正案では、年収条件や職種の限定を撤廃した案が出されるような予想も出ており、実際に議論されるのは今後のことなのかなとの思われます。

安倍政権の産業競争力の向上を目的とするこれまでの議論の傾向からして、厚生労働省の案では、なかなか実効性が上がらないのかなという感じもしますので、法案の骨子はまだまだ固まってこないのかなとも思われます。

何れにしても、来年の通常国会での法案提出の方針は固まったようですので、この法案と裁量労働制に関する改正案などが提出されることが予想されますので、今後の展開に注目したいと思います。

『危険負担』と『休業補償』の関係

労働者を会社都合で休業させた場合、休業補償を支払う必要があるということはよく知られていると思います。
では、この場合にいくらの補償が必要になるでしょうか?

「賃金額の60%」という答えが多く帰ってくるように思いますが、必ずしもそうとは限りません。
なぜなら、関連する2つの法律でそれぞれ違った規定が定められているからです。

まず、労務相談等でよく出てくる「休業手当」の規定ですが、これは労働基準法で次のように定めています。

●労働基準法第26条(休業手当)
『使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。』

つまり、使用者の責任による休業の場合、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことを義務付けています。

しかしながら、民法に次のような規定が存在します。

●民法第526条第2項(債務者の危険負担等)
『債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。』

この条文は、次のように言い換えると分かり易くなります。
『債権者(使用者)の責めに帰すべき事由により、債務(労務提供)を履行することができなくなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない。』ということになります。
すなわち、労働者には、賃金の全額を受けることができると規定しています。

つまり、労働基準法では平均賃金の60%以上を支払えば良いと定めているのに、民法では100%支払わなければならないと定めているということになります。

では、実際には、どれだけ支払わなければならないのでしょうか?

皆さんご存知の通り、労働基準法は、労働者保護のための強制法規にあたりますので、使用者の責めに期すべき事由による休業の場合、「休業手当」を最低でも平均賃金の60%以上支払わなければ、処罰の対象となります。
それに対し民法の規定は任意規定ですので、労使間の合意があれば、「危険負担」の規定を除外することが可能となります。
もちろん、労働基準法で定める平均賃金の60%を下回る労使間の合意は法違反となりますが、60%を超える部分は、お互いの合意があれば、請求対象から除外することができるわけです。

結論として、「休業補償」の額は、労働基準法で定める平均賃金の60%以上を支払うことで労働基準法上の処罰は免れるということになりますが、労働者が残余の賃金の請求をしてきた場合は、民法に定められている「危険負担」の規定による請求の道が残されているということになります。
但し、先に記載した通り、危険負担の規定は任意規定となりますので、労使間の合意により適用除外とすることが可能です。
可能であれば、就業規則等に「休業手当」の規定を定める際に、民法526条第2項の適用除外を明記してくことが望ましいということになるかと考えます。

「インフルエンザによる休業措置」と「休業補償」の支払義務について

桜の季節も終わり、そろそろGWに突入しようかという時期にインフルエンザ話題というのもいかがなものかと思いますが、今頃になってインフルエンザによるお休みに対する欠勤控除について質問が頻発しましたので、少しこの話題を取り上げてみたいと思います。

インフルエンザに感染したことにより会社を休んだ場合に休業補償(休業手当)の支払いについての義務が有るや無しやというのがちょくちょく質問に上がります。

もちろん、インフルエンザで高熱を発しているときには、概ね労働者自身が休みを申請して「自己都合による休業」又は「有給休暇の取得」となりますから休業補償の問題は発生しないと思います。
この場合に有給休暇を取得しない(又は有給休暇の残日数が無い)ときは、普通に欠勤したのと同様に欠勤控除をすれば良いという話ですむわけです。

しかし、インフルエンザに感染したことは明白(検査結果もはっきりしている)ですが、発熱に至っていないので仕事は十分可能な状態や発熱の症状が無くなっても感染力が継続している状態等に会社側が他の労働者への感染の危険性があるので休業してほしいとした場合がややこしいことになります。

もちろん、本人が「仕事ができるので働かせてほしい」と主張しているが、実際には労務提供ができる状態ではないと認定(客観的に認定が必要ですので、医師や産業医の指導が必要となりますが)される場合は、契約上の労務提供という債務の履行ができないことを理由に会社側がこの労務提供を拒否したとしても賃金の支払い義務は生じないと解されます。
当然、「休業補償」の問題も生じないということになります。

では、前述のように「インフルエンザには感染しているが労務提供は可能」な状態で「会社が労務提供を拒否した場合」はどうかというと、多くの場合は、会社側に賃金補償の責任が発生する可能性が高いと言わざるを得ないと考えます。

そこで、よく次のような議論があると思います。

「インフルエンザは強い感染力を有する病気ですので、他の労働者への感染を防止するための措置ということで就業を禁止したのだから休業補償の責任は発生しないはずだ。」

本当にそうでしょうか?

まず、『労働安全衛生規則』に次のような規定が存在します。

第61条  事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第1号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。
①  病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者
②  心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者
③  前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者
2  事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。

この規定の第1項第1号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者」にあたると認定された場合は、その就業を禁止しなければならないということになります。
しかし、現在この第1号に該当する疾病は「結核」のみであり、インフルエンザは労働安全衛生規則を根拠に就業禁止とすることはできません

次に『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』にも同じような定めがあります。
第18条(就業制限)
 都道府県知事は、一類感染症の患者及び二類感染症三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
2  前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。

インフルエンザは上記「感染症予防法」での取り扱いは第5類に分類されています
つまり、就業制限の対象となる第1~3類と新型インフルエンザには該当しないということになりますので、感染症予防法を根拠にしても就業禁止とすることはできないということになります。

結論としては、会社側がインフルエンザの感染を理由に「労務提供が可能」な状態の労働者の就業を禁止した場合は、「賃金補償」又は「休業補償」の問題が発生するということになります。
少々、法律的な解説で難しいかと思いますが、インフルエンザのための就業禁止措置には注意が必要ということになりますので、事業主または人事担当者の方は十分ご注意ください。

余談ですが、「賃金補償」と「休業補償」の関係には労働基準法のほかに民法563条の『危険負担』の問題も存在しますが、長くなりますので、この話はまたの機会にしたいと思います。

参考までに、感染症法の分類表が厚生労働省のHPにありますのでURLを記載します。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html

労使委員会とは?

平成15年の労働基準法改正により、事業所で『労使委員会』の設置が認められています。
あまり認知度が高くないと思いますが、企画業務型裁量労働制を導入する事業所では、設置が義務付けられていますので、一部の企画や研究関係を事業としている事業所では設置されているところがあるかと思います。

この委員会には他にも決議できる事項がいくつか認められており、一般的には労使協定で協定する事項についても『労使委員会の委員の5分の4以上の多数』の決議で代替できるというものがあります。

参考までに、ご紹介させて頂きますと、

【1】協定代替決議では労働基準監督署への届出が費用となるもの
○1箇月単位の変形労働時間制
○1年単位の変形労働時間制
○1週間単位の非定型的変形労働時間制
○フレックスタイム制
○一斉休憩適用除外
○事業場外労働制
○専門業務型裁量労働制
○年次有給休暇の計画的付与
○年次有給休暇中の賃金の定め
【2】指定様式で届出が必要なもの
○36協定
【3】労使協定では導入が不可能であり、労使委員会の決議を監督署に届出て効力が発生するもの
○企画業務型裁量労働制

などが列挙されています。

なお、設置の際に満たされなければならない要件は次のとおりです。
(1)賃金、労働時間その他の当該事業所の労働条件に関する事項を調査審議し、事業者に対し、当該事項について意見を述べることを目的としていること
(2)使用者及び当該事業場の労働者を代表する者が構成員になっていること
(3)委員の半数については、労働組合(当該事業場で労働者の過半数で組織されている労働組合がある場合)、または労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織される労働組合がない場合)に任期を定めて指名されていること
(4)当該委員会の議事を議事録として作成・保存され、また当該事業場の労働者に周知されていること
(5)労使委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項を規定として定められていること
(6)その他厚生労働省令で定める要件を満たしていること

私見ですが、毎年の「36協定」の締結を代替できることや就業規則に「懲罰委員会」の設置等を定めている事業所などの場合この労使委員会がそのまま有効な懲罰委員会としても利用出来ますので、使い勝手は良いように思いますので、労使間の権利義務を明確にするためにも設置の検討をしても良いのではと思うところです。

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