5月30日の朝刊に国に対し未払い年金の支払い命令が出たという記事がありました。
判決は、大阪地裁田中健治裁判長により下されたものですが、なかなか興味深い判決というのが第一印象でした。
事件の概要は、次の通りです。
原告女性の夫(当時31歳)は兵庫県の工具製造会社に勤めていた1981年に死去。その後1985年以降に明石社会保険事務所(現・明石年金事務所)などに10回ほど夫の年金記録を照会したが、「記録がない」と門前払い状態であったようです。
それが2009年に自身の年金相談のために社会保険事務所を訪れた際に夫の年金記録が見つかったというのです。
これを受けて、遺族年金の支給を申請したが、社会保険庁(現・日本年金機構)は2004年3月分以前は会計法上の時効(5年)に当たるとして支給を決定することはなかった。
原告女性は、社会保険庁が年金記録を発見出来なかったために遺族年金の支給が遅れたのに、時効を理由に5年分しか支給しないことは不当として、残り23年分も支払うよう求めたというのが本件訴訟の概要となります。
判決では、「年金記録の発見が遅れたのは社会保険事務所の違法な取り扱いが原因で、時効の主張は許されない」として国に対し、未払い年金約2,200万円の支払いを命じています。
少々、違和感を感じたのが、かつて原告女性が、遺族年金の相談で明石社会保険事務所を訪れた際になぜ夫の年金記録がみつからないということになったのか?という点です。
新聞報道ではあまり詳しくは記載されていませんでしたが、判決では「社会保険事務所の違法な取り扱いが原因で年金記録の発見が遅れた」と断じています。
本件のケースでは、原告女性の夫は死亡当時会社員であったように思われますので、厚生年金保険の被保険者であったと推定されます。
そうであれば、年金記録が最初の相談で発見されなかったことが不可思議と思われてなりません。
もっと高齢者の老齢年金の相談事であれば、記録が欠損しているとしても不思議はないのですが、30台前半くらいの遺族年金の年金記録が欠損しているというのはいかにも不自然極まりないと思います。
判決で、原告女性の主張が認められたのは極めて喜ばしいことですが、本件事件の源流である30数年前の社会保険事務所と社会保険庁の対応に違法行為があり、その隠蔽をはかり記録を意図的に消したのではないかと穿った見方をしてしまうのも事実です。
最近あまり話題に登りませんが、『消えた年金問題』の調査は、まだまだ道半ばと聞きます。
実際には、本件訴訟のように消された年金記録によって本来受けるべき年金が受給できずに苦しんでいる人がいるかもしれないと改めて思ったところです。