Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

2014年04月

『危険負担』と『休業補償』の関係

労働者を会社都合で休業させた場合、休業補償を支払う必要があるということはよく知られていると思います。
では、この場合にいくらの補償が必要になるでしょうか?

「賃金額の60%」という答えが多く帰ってくるように思いますが、必ずしもそうとは限りません。
なぜなら、関連する2つの法律でそれぞれ違った規定が定められているからです。

まず、労務相談等でよく出てくる「休業手当」の規定ですが、これは労働基準法で次のように定めています。

●労働基準法第26条(休業手当)
『使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。』

つまり、使用者の責任による休業の場合、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことを義務付けています。

しかしながら、民法に次のような規定が存在します。

●民法第526条第2項(債務者の危険負担等)
『債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。』

この条文は、次のように言い換えると分かり易くなります。
『債権者(使用者)の責めに帰すべき事由により、債務(労務提供)を履行することができなくなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない。』ということになります。
すなわち、労働者には、賃金の全額を受けることができると規定しています。

つまり、労働基準法では平均賃金の60%以上を支払えば良いと定めているのに、民法では100%支払わなければならないと定めているということになります。

では、実際には、どれだけ支払わなければならないのでしょうか?

皆さんご存知の通り、労働基準法は、労働者保護のための強制法規にあたりますので、使用者の責めに期すべき事由による休業の場合、「休業手当」を最低でも平均賃金の60%以上支払わなければ、処罰の対象となります。
それに対し民法の規定は任意規定ですので、労使間の合意があれば、「危険負担」の規定を除外することが可能となります。
もちろん、労働基準法で定める平均賃金の60%を下回る労使間の合意は法違反となりますが、60%を超える部分は、お互いの合意があれば、請求対象から除外することができるわけです。

結論として、「休業補償」の額は、労働基準法で定める平均賃金の60%以上を支払うことで労働基準法上の処罰は免れるということになりますが、労働者が残余の賃金の請求をしてきた場合は、民法に定められている「危険負担」の規定による請求の道が残されているということになります。
但し、先に記載した通り、危険負担の規定は任意規定となりますので、労使間の合意により適用除外とすることが可能です。
可能であれば、就業規則等に「休業手当」の規定を定める際に、民法526条第2項の適用除外を明記してくことが望ましいということになるかと考えます。

「インフルエンザによる休業措置」と「休業補償」の支払義務について

桜の季節も終わり、そろそろGWに突入しようかという時期にインフルエンザ話題というのもいかがなものかと思いますが、今頃になってインフルエンザによるお休みに対する欠勤控除について質問が頻発しましたので、少しこの話題を取り上げてみたいと思います。

インフルエンザに感染したことにより会社を休んだ場合に休業補償(休業手当)の支払いについての義務が有るや無しやというのがちょくちょく質問に上がります。

もちろん、インフルエンザで高熱を発しているときには、概ね労働者自身が休みを申請して「自己都合による休業」又は「有給休暇の取得」となりますから休業補償の問題は発生しないと思います。
この場合に有給休暇を取得しない(又は有給休暇の残日数が無い)ときは、普通に欠勤したのと同様に欠勤控除をすれば良いという話ですむわけです。

しかし、インフルエンザに感染したことは明白(検査結果もはっきりしている)ですが、発熱に至っていないので仕事は十分可能な状態や発熱の症状が無くなっても感染力が継続している状態等に会社側が他の労働者への感染の危険性があるので休業してほしいとした場合がややこしいことになります。

もちろん、本人が「仕事ができるので働かせてほしい」と主張しているが、実際には労務提供ができる状態ではないと認定(客観的に認定が必要ですので、医師や産業医の指導が必要となりますが)される場合は、契約上の労務提供という債務の履行ができないことを理由に会社側がこの労務提供を拒否したとしても賃金の支払い義務は生じないと解されます。
当然、「休業補償」の問題も生じないということになります。

では、前述のように「インフルエンザには感染しているが労務提供は可能」な状態で「会社が労務提供を拒否した場合」はどうかというと、多くの場合は、会社側に賃金補償の責任が発生する可能性が高いと言わざるを得ないと考えます。

そこで、よく次のような議論があると思います。

「インフルエンザは強い感染力を有する病気ですので、他の労働者への感染を防止するための措置ということで就業を禁止したのだから休業補償の責任は発生しないはずだ。」

本当にそうでしょうか?

まず、『労働安全衛生規則』に次のような規定が存在します。

第61条  事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第1号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。
①  病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者
②  心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者
③  前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者
2  事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。

この規定の第1項第1号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者」にあたると認定された場合は、その就業を禁止しなければならないということになります。
しかし、現在この第1号に該当する疾病は「結核」のみであり、インフルエンザは労働安全衛生規則を根拠に就業禁止とすることはできません

次に『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』にも同じような定めがあります。
第18条(就業制限)
 都道府県知事は、一類感染症の患者及び二類感染症三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
2  前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。

インフルエンザは上記「感染症予防法」での取り扱いは第5類に分類されています
つまり、就業制限の対象となる第1~3類と新型インフルエンザには該当しないということになりますので、感染症予防法を根拠にしても就業禁止とすることはできないということになります。

結論としては、会社側がインフルエンザの感染を理由に「労務提供が可能」な状態の労働者の就業を禁止した場合は、「賃金補償」又は「休業補償」の問題が発生するということになります。
少々、法律的な解説で難しいかと思いますが、インフルエンザのための就業禁止措置には注意が必要ということになりますので、事業主または人事担当者の方は十分ご注意ください。

余談ですが、「賃金補償」と「休業補償」の関係には労働基準法のほかに民法563条の『危険負担』の問題も存在しますが、長くなりますので、この話はまたの機会にしたいと思います。

参考までに、感染症法の分類表が厚生労働省のHPにありますのでURLを記載します。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html

退職後の『うつ自殺』に労災認定 東京・新宿労基署

この程、東京都のアニメ制作会社に勤めていて、辞めた後の2010年10月に自殺した男性(当時28歳)について、新宿労働基準監督署が過労によるうつ病が原因として労災認定していたことが、遺族側の弁護士により公表されました。

弁護士によると、男性は正社員として2006年から2009年まで勤務し、通院していた医療機関のカルテには「月600時間労働」といった記載があったとのことです。
このアニメ制作会社にはタイムカードによる労働時間管理といった仕組みは導入していなかったようです。

労基署は、時期を不明としつつも男性は在職中にうつ病を発症し、その前の2~4か月に少なくとも100時間を超える残業があったと認定したしたとのことでした。

最近の『精神障害の労災認定』の基準として、出来事としての長時間労働】では、発病前1~3か月の長時間労働を出来事として評価することがあります。
この場合の「強」に評価される例としては、
・発病直前の2か月連続して1ケ月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合。
・発病直前の3か月連続して1ケ月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合。

が挙げられています。

この基準からすると、この男性のケースでは、時期を不明としながらも、うつ病発症前の2~4か月に少なくとも100時間超の残業としているところが、上記の『発病直前の概ね100時間以上の時間外労働』に該当すると推定したのかもしれません。

確かに今回のケースでは、弁護士推定の発症時期までの半年間の残業時間は月134時間~344時間に上ったということですので、この推定は適当と思われますが、労基署が時期を不明としながらも、労災を認定したということに少なからず衝撃を受けました。

従来、『精神障害の労災認定』を受けるためには、膨大な証拠を認定を請求する側が用意することが必要と思われてきたため、発症時期が不明確な状態で認定されたということが、驚きでもあり、恐ろしいかなとも思われました。
ましてや労働者が退職してから3年以上も経過してからの認定には驚きがありました。

将来的には、もっと精神障害労災認定が身近なものとなることが予想されますので、うつ病で退職した社員や遺族から突然「労働環境に対する事業主の安全配慮義務違反」として訴訟を起こされることもあるかもしれないと思った次第です。

余談ですが、この事件でのアニメ制作会社ではタイムカードによる労働時間管理の仕組みを導入していなかったようですが、労働時間管理につい、平成12年の『労働時間の適正把握基準』というものがあり、労働者の労働時間を適正に把握する義務が事業主にはありますのでその点からも問題はあるかなと思われます。

船員法上の船長の責任

この程、韓国で深刻な海難事故が発生しました。
大型旅客船の沈没事故で、今なお多くの乗客が沈没船に取り残されていると報道されています。
そんな中、船長を含む乗員の多くが助かっており、乗客を残して先に船長が脱出したというニュースがあり、耳を疑いました。
本来、船長は乗客・積荷の安全を確保することが責務であり、その責任を全うするまでは離船してはならないと定められている筈だからです。

因みに、日本の船員法では、『船長の職務と権限』を次のように規定しています。

第11条(在船義務)
船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わって船舶を指揮すべき者にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ってはならない

第12条(船舶に危険がある場合における処置)
船長は、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くさなければならない

このように船長は、船舶に危険が及んでいる場合に乗客が無事に下船するまでは、船を降りてはならないと定められています。

社労士の仕事をしていると、船員法とのかかわりもあり、この規定は以前から認識していたので、今回の報道での船長が脱出しているという事実は信じられないことでした。

韓国の船員法でも恐らく同じような定めはあると思いますので、どうしてこのようなことになったのかきっちり報じてもらいたいものです。
何よりも、少しでも多くの方の生存が確認できるのをお祈りしたいと思います。

雇用保険特定受給資格者の判断基準が改正されました。

雇用保険の失業等給付(基本手当)における特定受給資格者とは、倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者に対し、所定給付日数を優遇する等の措置がなされるというものです。
平成26年4月1日より、この特定受給資格者の判断基準が改正されましたので、改正部分をご紹介したいと思います。

〇改正部分

Ⅱ-③
【改正前】
 賃金(退職手当を除く)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2か月以上となったこと等により離職した者。
【改正後】
 賃金(退職手当を除く)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった月が引き続き2ヶ月以上となったこと、または離職の直前6ヶ月の間のいずれかに3ヶ月あったこと等により離職した者。

<改正のポイント>
改正前は、2か月以上連続で賃金の支払遅延があった場合になっていたが、改正後は離職前6か月間のいずれかに3月あった場合へと要件が緩和されました。

Ⅱ-⑤
【改正前】
 離職の直前3ヶ月間に連続して労働基準法に基づき定める時間(各月45時間)を超える時間外労働が行われたため、又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者。
【改正後】
 離職の直前6ヶ月間のうちに3月連続して45時間1月で100時間又は2~6月平均で80時間を超える時間外労働が行われたため又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者。

<改正のポイント>
改正前は、離職直前の3か月に連続して45時間を超える時間外労働に限定していたものを次の要件に緩和されました。
①離職直前の6か月のうちで3か月連続での45時間超の時間外労働
②離職直前の6か月のうちのいずれか1月で100時間超の時間外労働
③離職直前の6か月のうちのいずれか連続する2か月以上の期間で平均して80時間超の時間外労働

以上の2点が改正され、従来より「特定受給資格者」に認定される要件が緩和されました。

改正点が、「賃金の支払い遅延によるもの」「長時間労働によるもの」というのが、昨今の労働環境を象徴しているように思われますが、平成26年は「デフレ脱却」や「賃上げ気運」等により多少ですが経済状況が上向きになってきているようですので、この改正がそれほど適用されることが無かった改正に終わった方が良いのかもと思うところです。

【就業促進定着手当】が創設されました。

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平成26年4月より雇用保険の給付に新しいものが追加されます。
再就職後の賃金が、離職前の賃金より低い場合に給付が受けられる「就業促進定着手当」というものです。

支給対象者は、平成26年4月1日以降の再就職で、次の要件を満たしている方となります。
①再就職手当の支給を受けていること
②再就職の日から、同じ事業主に6か月以上、雇用保険の被保険者として雇用されていること
③所定の算出方法による再就職後6か月間の賃金の一日分の額が、離職前の賃金の日額を下回ること

支給額は、

『(離職前の賃金日額-再就職後6か月間の賃金の1日分の額)×再就職後6か月間の賃金の支払基礎となった日数』

となっており、再就職前の基本手当の支給残額の40%を上限に支給されるというものです。

なお、申請手続きは、「就業促進定着手当」の支給申請書が再就職後おおむね5か月後にハローワークより受給者本人に郵送されますので、再就職した日から6か月を経過した日の翌日から2か月以内に必要書類を添えて申請手続きを行うということになります。
また、この申請は、在職者を対象にしていますので、郵送での手続きも可としているようです。

なお、『再就職後6か月間の賃金の一日分の額』の計算方法は、次の通りです。

【月給の場合】
再就職後6か月間の賃金の合計額 ÷ 180

【日給・時給の場合】
次の①又は②のいずれか金額の高い方
①再就職後6か月間の賃金の合計額 ÷ 180
②(再就職後6か月間の賃金の合計額 ÷ 賃金支払いの基礎となった日数)×70%

※上記賃金額は、賃金締切日の途中での再就職の場合は、再就職後の最初の賃金締切日後の6か月間の賃金を対象とします。

手当の主旨としては、再就職手当を受けた受給資格者が、再離職して基本手当を受けた場合の財源を利用して、離職前の賃金額を再就職後の賃金額が下回った場合でも、離職前の手取りが確保されるようにすることで定着を図ろうとしているということと思われます。
今後、半年後から支給がされるようになりますがどれほどの効果が出てくるのか、少々興味のあるところですが、どういった形でこの評価が出てくるのか見ていきたいものです。

育児休業給付の支給率が引き上げられます。

平成26年4月1日以降に開始する育児休業から育児休業給付の支給率が引き上げられます。

具体的には、育児休業を開始してから180日目までは、休業開始前の賃金の67%となります。
これまでは全期間について休業j開始前の賃金の50%でしたので約半年間について17%の支給率アップとなります。

育児休業開始181日目からは、従来通り休業開始前の賃金の50%が支給されるということです。

ご存知の通り、健康保険の給付で「出産手当金」という給付がありますが、この給付が標準報酬日額の3分の2(およそ67%)ですので、この給付に合わせての引き上げになったようです。
但し、標準報酬日額と雇用保険の日額の算定方法では若干計算方法が異なりますので、全く同額というわけにはいかないと思いますが・・・

また、上記の支給期間中に賃金の支払いがある場合はその支払われた賃金の額が休業開始前の賃金日額に支給日数を乗じた額に対し、13%を超えるときは支給額が減額され、80%を超えるときは不支給となります。

なお、支給額には上限額と下限額が設定度されておりますが、この額は従来と変化はないようです。
因みに、上限額は213,450円、下限額は69,300円です。(平成26年7月31日までの額)

個人的には、出産手当金と支給率を合わせることにそれほど意味があるとは思いませんが、子育て期の家族を支援するという意味では少額でも支給額が増加することが好ましいこと御思いますので、こういった改正は、今後も積極的に実施して頂きたいと思います。

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