労働者を会社都合で休業させた場合、休業補償を支払う必要があるということはよく知られていると思います。
では、この場合にいくらの補償が必要になるでしょうか?
「賃金額の60%」という答えが多く帰ってくるように思いますが、必ずしもそうとは限りません。
なぜなら、関連する2つの法律でそれぞれ違った規定が定められているからです。
まず、労務相談等でよく出てくる「休業手当」の規定ですが、これは労働基準法で次のように定めています。
●労働基準法第26条(休業手当)
『使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。』
つまり、使用者の責任による休業の場合、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払うことを義務付けています。
しかしながら、民法に次のような規定が存在します。
●民法第526条第2項(債務者の危険負担等)
『債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。』
この条文は、次のように言い換えると分かり易くなります。
『債権者(使用者)の責めに帰すべき事由により、債務(労務提供)を履行することができなくなったときは、債務者(労働者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない。』ということになります。
すなわち、労働者には、賃金の全額を受けることができると規定しています。
つまり、労働基準法では平均賃金の60%以上を支払えば良いと定めているのに、民法では100%支払わなければならないと定めているということになります。
では、実際には、どれだけ支払わなければならないのでしょうか?
皆さんご存知の通り、労働基準法は、労働者保護のための強制法規にあたりますので、使用者の責めに期すべき事由による休業の場合、「休業手当」を最低でも平均賃金の60%以上支払わなければ、処罰の対象となります。
それに対し民法の規定は任意規定ですので、労使間の合意があれば、「危険負担」の規定を除外することが可能となります。
もちろん、労働基準法で定める平均賃金の60%を下回る労使間の合意は法違反となりますが、60%を超える部分は、お互いの合意があれば、請求対象から除外することができるわけです。
結論として、「休業補償」の額は、労働基準法で定める平均賃金の60%以上を支払うことで労働基準法上の処罰は免れるということになりますが、労働者が残余の賃金の請求をしてきた場合は、民法に定められている「危険負担」の規定による請求の道が残されているということになります。
但し、先に記載した通り、危険負担の規定は任意規定となりますので、労使間の合意により適用除外とすることが可能です。
可能であれば、就業規則等に「休業手当」の規定を定める際に、民法526条第2項の適用除外を明記してくことが望ましいということになるかと考えます。