Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

2013年12月

家族旅行

本日は、大晦日。 年末年始の休暇を利用して、東京旅行に参りました。 3歳の息子を連れた旅行ですので、子ども中心のスケジュールになり、お台場のLegoLandや東京ディズニーランドといったテーマパークが中心の旅になりましたが、昨日は日程の隙間を利用して浅草寺にお参りをしてきました。 浅草からホテルまでは水上バスで隅田川を遊覧して、川から東京の街並みを見ることが出来、なかなか有意義でした(^-^)v 大晦日の今日は、東京ディズニーランドで長蛇の待ち行列に耐えましたが、それなりに3歳の息子も楽しんだようです。 年末年始に我々は遊びに東京に来ましたが、その間も鉄道や船という交通機関、テーマパーク等の観光スポットや飲食店、ホテル等たくさんの人たちが働いているということも改めて実感しました。 来年も労働関係のブログをアップしていきたいと思っていますので、これからもよろしくお願い致します。 まだ休みが続きますので、もう少し旅行を続けたいと思います。 では、皆さんよいお年をお迎えください。03b7d408.jpg
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中小事業主等の「特別加入」制度とは。

皆さまご存じのとおり、労働者災害補償保険(労災保険)とは、「労働者」の業務上及び通勤途上の災害を補償する保険です。
この労災保険の保険料は、「労働者」を雇用している「事業主」が全額負担しています。
もちろん、労災保険が存在しなければ、業務上の災害は「事業主」が補償することになりますので、保険料を負担するのは当然のこととなりますが、当の「事業主」は「労働者」に当たらないので業務上の事故で事業主本人が負傷しても、労災保険の保険給付を受けることはできません。
少々、気の毒な感じがするのは、わたくしだけではないと思います。
(かくいうわたくしも事業主の端くれですので同じように労災保険は利用できません。)

事業主(社長や役員など)には、「労働者」にあるような公的補償は一切ありませんので、少々高額な保険料を支払って、民間保険会社の生命保険などを頼っている方が大勢いらっしゃると思います。
もちろん、生命保険や傷害保険を利用して、補償制度を自ら準備することはとても大事ですし、社長や役員にとっては必需品と言えますが、一定の要件に該当すると事業主も「労災保険」に加入することができます。
これが、中小事業主等の「特別加入」制度です。

加入出来る事業主の要件は、概ね次のとおりです。
①業種別に定められた要件を満たす中小事業主(従業員300人以下(金融・保険・不動産・小売業は50人以下、卸売・サービス業は100人以下))であること
②労働者を年間を通して1人以上使用していること
労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託していること

万が一の事故の際、「特別加入」することによってどのような補償が受けられるのかというと、一部の補償を除いて、「労働者」の補償と全く同じ補償が受けられることになります。
療養費用は全額自己負担が不要となり、万が一の死亡事故や後遺症が残るような障害の場合は、遺族年金や障害年金が受けられることとなります。
但し、労災事故と認定された場合に限られますが・・・

これだけの補償ですから、保険料が高いと思っていらっしゃる方が多いと思いますが、なかなかリーズナブルな負担でこの補償を受けることができます。
例えば、卸売業の社長が、給付基礎日額2万円(月額報酬60万円相当)で特別加入した場合、年間保険料25,550円労働保険事務組合の委託手数料(組合と企業の規模によって金額は異なりますが月額1万円から2万円程度が多いように思います。)だけでこの補償が受けられます。

これが高いか安いかを判断するのは、それぞれの社長の判断基準によるかなと思いますが、過去にわたくしが関与した企業で社長と部長が出張中の交通事故で死亡するするという痛ましい事故がありました。
この社長は、生命保険による保障を用意していましたので、相当額の保険金が遺族に支払われましたが、同時に労災の特別加入もされていたのです。
奥様とお子様(当時10歳程度かな)が遺族としていらっしゃいましたので、お子様が18歳になるまで毎年400万円余りの遺族年金が支給されることとなったようです。(その他に一時金として300万円葬祭料として120万円が支払われたと推定されます。)

まさか、ご自身にこのような災厄が降りかかると予想して「特別加入」をされたわけではなく、従業員(当時は5名程度だったかな)の雇用保険の手続きを委託するついでに加入されたのかなと思いますが、「特別加入」されていて結果的には不幸中の幸いだったと思いました。

死亡事故のような例はあまり多いものではありませんが、特別加入による恩恵は一般的な療養費が不要になるような部分が多いと思いますし、昨今では建設業従事者(社長や一人親方等)の特別加入が現場入場の必須アイテムになりつつあるような状況を考えると、事業主の「特別加入」は結構有効なのかなと最近思うようになってきました。

皆さんはどのように思われましたか?

※本ブログでは、「中小事業主の特別加入」を取り上げましたので説明を省略しましたが、「一人親方等」や「海外派遣者」等の特別加入制度もありますので、また別の機会に取り上げたいと思います。
※なお、事業主の労災認定には、労働者の認定の場合と基準が異なりますので、すべての業務上の事故が認定されるわけではありませんが、詳しく書くともっと長くなりますので、詳細はまたの機会に・・・。

健康保険法の改正

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平成25年10月1日より健康保険法の一部が改正となり、従来健康保険の適用ができなかった給付範囲の傷病が保険適用できるようになりました。

改正内容は、次のとおりです。

健康保険の給付範囲を見直し、健康保険及び労災保険のいずれの給付も受けられない事態が生じないよう、「労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とすること」とする。
ただし、 役員の業務上の負傷については、現行の取扱いと同様に小規模な適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者を除き、健康保険から給付を行わないこととする。

従来、健康保険法で「業務」とは、「職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業以外」と解釈していたため、副業として行う請負業務やインターンシップ、シルバー人材センター業務等の場合、労災保険から給付されないだけでなく、健康保険でも「業務上」と判断され、給付されないケースがありました。
今回の改正で、このようなケースが救済されることとなりました。

しかし、但し書きにあるように、法人の役員等の業務上の負傷については、現行の取扱いと同様に、「被保険者が5人未満の適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者」については、現行でも給付対象しているため、健康保険の給付対象とするということにしたようです。

結果的には、多少規模の大きな法人等の代表者については、健康保険と労災保険の双方から給付が全く受けられないという隙間問題は解消されていないようでした。
但し書きの前の改正条文を見て、かなり期待した部分については、踏み込まれなかったということが少々残念な改正だったと思いました。

再婚したら「加給年金」はもらえるの?

皆さんは、老齢厚生年金等に「加給年金」という給付があることをご存知でしょうか?

「加給年金」とは、老齢厚生年金の受給権者が受給権を取得した時に65歳未満の妻や18歳未満のこどもを扶養しているときに一定額が老齢厚生年金に加算される仕組みで、この上乗せ部分を「加給年金」と言います。これは、元々サラリーマンの妻が老齢年金を受けることが出来ないケースが多かったため、これを補う意味で設けられたもので、扶養手当的な意味合いが強いものです。

因みに、「加給年金」の受給資格・受給要件は次のようになっています。

【特別支給の老齢厚生年金(定額部分を受け取っている場合)、または65歳以上の老齢厚生年金の受給者で、厚生年金保険の被保険者期間が240月以上の場合に、生計を維持している配偶者または子がいるときは加給年金額が加算されます。】

【生計を維持している配偶者又は子の要件】
 ①配偶者は65歳未満、子どもは18歳(障害者は20歳)になって最初の3月31日までの間
 ②配偶者や子どもそれぞれの年収が850万円未満であること
 ③配偶者の厚生年金加入期間が20年未満であること

【加給年金の支給開始の事由(例)】
 ①60歳時点で厚生年金被保険者期間が240月を満たしているとき
 ②60歳から老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢までに退職して240月を満たしたとき
 ③定額部分の支給開始後から65歳までに退職して240月を満たしたとき
 ④65歳時点で240月を満たしたとき
 ⑤65歳以上70歳未満の間に退職して240月を満たしたとき
 ⑥70歳到達時に240月をみたしたとき

以上が一般的な「加給年金」の受給要件となりますが、従来受けていた「加給年金」が停止するケースがあります。
主な停止事由は次のようなものがあります。
 ①配偶者が65歳、子が18歳に到達した
 ②配偶者の厚生年金加入期間が20年に到達した
 ③配偶者と離婚した
等々

この停止事由の例で「離婚」というのがありますが、先日逆のケースで年金受給者が結婚した場合に「加給年金」の受給が開始できるのかという質問がありました。
(この方は60歳で年金を受給し始めたころは結婚されていたので加給年金を受給していたのですが、その後離婚して加給年金が不支給となった方でした。)

結論としては、既に年金を受給している場合、新たに「加給年金」を受給できるケースは皆無(たぶんあり得ない)と思われます。

つまり、上記の【加給年金の支給開始の事由(例)】にある通り、60歳以上で加給年金が支給開始になるケースはすべて、その時点より後に厚生年金加入期間が240月を満たした場合となっており、既に年金受給権を持っている方の場合、240月を既に満たしているので、そのケースにはなりえないということとなります。

逆に若いときにサボっていて厚生年金の加入期間が少ない方が65歳を過ぎて結婚(又は再婚)をして、その後に240月を満たした場合、そこから老齢厚生年金の受給と加給年金額の加算がされるということになります。

今回の質問で改めて「加給年金」というものを再確認した結果、少々制度の違和感を感じる結果となりました。

近年ますます晩婚が多くなっていると思いますが、同じように65歳を過ぎてから若い奥さんと結婚した場合に、厚生年金保険料を多く払った人(長く加入した人)に加給年金という扶養手当が支給されず、あまり多くの保険料を払っていない人(加入期間が短い人)に扶養手当付の老齢厚生年金が支給されるというのは、少々不公平な感じがするなと思った次第です。
皆さんはどのように思われますか?

※本ブログの「加給年金」受給要件等については、一部要件(期間特例等)を省略しておりますので、予めご了承下さい。

『精神障害の労災認定』の基準

このほど、厚労省は今年9月に実施した、『ブラック企業』対策のための集中取り締まりの結果を公表しました。調査対象とした5,111社のうち、実に82%にあたる4,189社で、賃金不払いや違法な時間外労働といった違法行為が確認されたそうです。
労働基準監督署が是正指導を実施し、これに従わない場合は書類送検する方針とのことです。

違反の内訳は、「労使の合意を超えて時間外労働させる」などの労働基準法違反が43.8%(2,241社)と最多。
「正社員の多くを管理職として扱い、時間外の割り増し賃金を支払っていない」(名ばかり管理職)などは23.9%(1,221社)、「給与や休日などの労働条件が明示されていない」も19.4%(990社)あったそうです。

業種別では、飲食店などの「接客娯楽業」が87.9%でトップだったようです。

以前、飲食店の従業員が、長時間労働による過労により『過労自殺』を図り、亡くなっていたという報道がありました、過労自殺のような痛ましいケースのすべてが、そのブラック企業で起こっているとは申しませんが、ある程度関連性はあるのかなと思った次第です。

そこで最近の『過労自殺』いわゆる『精神障害の労災認定の基準』について、少し説明をしたいと思います。

精神障害の労災認定要件は次の通りです。

①認定基準の対象になる精神障害を発病していること
②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
業務以外の心理的負荷個体側要因により発病したとは認められないこと

それでは、認定要件を満たすかどうかの判断方法ですが、次の通りです。

① 認定基準の対象になる精神障害かどうか?d4875ea1.png

認定の対象となる精神障害は、上の表「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって、認知症や頭部外傷による障害(F0)、アルコール・薬物依存(F1)は除かれます。
業務により発症する可能性のある精神障害の代表格はうつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)等が挙げられます。

② 業務による強い心理的負荷が認められるかどうか?
 労働基準監督署の調査に基づき、発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について、『業務による心理的負荷評価表』により「強」と評価される場合に認定要件②を満たすとしています。
 細かい評価方法は割愛しますが、前述の評価表にある「特別な出来事」(生死にかかわるような業務上のケガや病気といった「心理的負荷が極度のもの」や「極度の長時間労働」)がある場合は「強」と認定され、「特別な出来事」が無い場合は、具体的な出来事を当てはめて評価し「強」「中」「弱」と評価するようです。

因みに長時間労働がある場合の評価方法は次の通りです。
(A)「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」
 発病直前の極めて長い労働時間を評価します。
 【「強」と評価される例】
・発病直前の1箇月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合。
・発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合。
(B)「出来事」としての長時間労働
 発病前1箇月から3箇月間の長時間労働を出来事として評価します。
 【「強」に評価される例】
・発病直前の2か月連続して1ケ月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合。
・発病直前の3か月連続して1ケ月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合。
(C)「他の出来事」と関連した長時間労働
 出来事が発生した前後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価します。
 【「強」と評価される例】
・転勤して新たな業務に就き、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合。

と言った具合に、長時間労働と心理的負荷の関連性がやはり評価基準としては重くとらえられていることが分かります。

③-1 業務以外の心理的負荷による発病かどうか?
 『業務以外の心理的負荷評価表』を用い、心理的負荷の強度を評価します。
 表の『Ⅲ』に該当する出来事がある場合などはそれが発病の原因であるかどうかを慎重に判断します。
③-2 個体側要因による発病かどうか?
 精神障害の既往歴やアルコール依存状況など個体側要因について、その有無とその内容を確認し、個体側要因がある場合には、それが発病の原因であるといえるか慎重に判断する。

以上の通り、労災認定とするには、精神障害の発病が「業務上の事由」によるものであることが必要となりますので、③-1,2という「業務外」又は「個体側要因」による発病であるかどうかが慎重に判断されるわけです。

最後に、『過労自殺』(労災認定の対象となる自殺)の取扱についてですが、次のような取扱いがされているようです。
 業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺を図った場合は、精神障害によって、正常な認識や行動選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったもの(『故意の欠如』)と推定され、その死亡は「労災認定」されることとなるようです。
 つまり、長時間労働がある場合の評価方法にあるように直近1箇月で160時間を超過するような時間外労働を強いられた結果、『自殺』に至った場合などは、機械的に『過労自殺』と認定され、企業がその責任を問われるということがあるということになります。
 労働者の勤務時間を適正に把握する責任が企業にはありますので、十分に注意を払った労務管理の必要性がますます増しているように思いました。

「企画業務型裁量労働制」の適用拡大について

先日、新聞紙上に厚生労働省は「裁量労働制」を拡大するという方針を固めたという記事が掲載されておりました。
具体的には、企画業務型裁量労働制の適用範囲を拡大するという主旨の法改正が、今後国会で審議されることになるのかなと予想されます。

社労士である我々には、「裁量労働制」という制度は馴染みのあるものですが、一般人にはお世辞にも理解されているとは言い難いと思います。

本日は、裁量労働制について、少々ご紹介させて頂きたいと思います。

裁量労働制には、「企画業務型」と「専門業務型」の2種類があります。
法整備がなされてから比較的期間の経っている「専門業務型」は、適用する企業も結構増えているようですが、今回の報道の主役である「企画業務型」はいっこうに適用率が上がってきてはいないようです。

「企画業務型裁量労働制」とは、それぞれに労働基準法で認められる『事業場』の『業務』に『労働者』を就かせるときに、その事業場に設置された労使委員会で決議した時間を労働したものとみなすことができる制度です。

◎『事業場』とは、『対象業務』が存在する企業等の本社・本店或いはそれに準ずる決定機関としての事業場であること。
◎労働基準法で認められる『業務』とは、次の全てに該当する業務であること(『対象業務』)
①事業の運営に関する事項についての業務であること。
②企画、立案、調査及び分析の業務であること。
③業務の性質上これを適切に遂行するにはその方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること。
④業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること。
◎労働基準法で認められる『労働者』とは、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であり、且つその業務に常態として従事している労働者であること。

以上のとおり、対象事業場である『事業場』の対象業務である『業務』に対象労働者の範囲にある『労働者』を就かせたときに限り、実際の労働時間に拘わらず、その事業場における『労使委員会で決議した時間』を労働したものとみなすことができることになるのです。

さらに、この制度を導入するには、労使委員会が設置された事業場において、この委員会が委員の5分の4以上の多数による議決により次の事項に関する決議をし、使用者がその決議を所轄労働基準監督署に届け出ることが必要となります。
◎労使委員会の決議事項
①対象業務
②対象労働者の範囲
③みなし労働時間(1日あたりの時間数)
④対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置
⑤対象労働者からの苦情の処理に関する措置
⑥労働者の同意の取得及び不同意者への解雇その他の不利益取扱の禁止

その上、制度導入から6か月毎に1回、対象労働者の健康・福祉確保の措置に関する実施状況についての『定期報告』を所轄労働基準監督署に行う必要があります。

という具合に、非常に面倒且つ複雑な手順を踏んで導入する必要があり、さらに導入してからも半年毎に『定期報告』が必要という制度になっています。
これらが一向に導入率が上昇しない原因ではないかと思われます。

また、労働者の範囲についても、『対象業務』を『対象労働者の範囲』に該当する労働者に限定しており、労働者のスキルもその適用要件としている点でも相当にハードルは高いと言えます。

今回の厚生労働省の『裁量労働制の拡大』という方針決定では、この導入手順・運用等について規制緩和がされることが予想されますが、裁量労働制には著しく過酷な労働条件を労働者に科す場合もありますので、この辺のバランスのとれた法改正になるような議論を期待したいところです。

「懲戒処分」を適用するには。

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労働者と企業の間で締結される労働契約によって、労働者には企業の指揮命令により業務を遂行するという義務が生じます。また、企業にはその対価としての労働者に対し賃金支払義務(債務)が生じることは言うまでもないでしょう。
この労働契約には、いくつかの付随義務が同時に生じると考えられています。これが、「業務専念義務」や「企業秩序遵守義務」といったものです。
これらは、労働者が企業のルールを守らなければならないとする根拠のような役割を果たしており、ルール違反を犯した労働者に対して罰(懲戒処分)を与える根拠となるものと考えられてきました。

企業の「懲戒権」の行使については、大別して2つの説があります。
①固有権説と②契約説の2つがこれにあたります。

では、具体的に両者の違いはどのようなものでしょう。

先ず、「固有権説」ですが、これは労働契約締結により企業側が「企業秩序の維持と規律を遵守する義務(つまりは、「企業秩序遵守義務」に当たるもの)」を固有的な権利として有することを意味し、特別な根拠規定がなくても懲戒処分を科すことができるとする説です。

これに対し、「契約説」では、懲戒処分は労働契約において、具体的に懲戒の基準や内容を合意することが必要とする説であり、懲戒処分の明確なルール化が必要とするものです。

言いかえると、「固有権説」では、労働契約自体に懲戒権が固有の権利として認められるため、具体的な罪刑は定める必要が無いということになりますが、「契約説」では、合意の原則に立った契約として懲戒権が存在するため、具体的な罪刑を事前に労使で合意する必要があるということになります。
つまり、自然法的に懲罰ができる「固有権説」に対し、罪刑法定主義に則った刑罰規範的な「契約説」ということになります。

現在、最高裁判例では、どちらかというと「固有権説」に近い立場の理論構成をしつつも、懲戒処分の適用に関しては、①予め就業規則等で懲戒内容と懲罰の内容を定めること、②就業規則の内容を労働者に周知することを基本的な要件としています。

結論としては、企業が固有的に有する「懲戒権」は認められるが、懲戒を科す場合は、予め懲戒事由を明確にし、労働者に周知する必要があるということになります。

つまりは、企業は労働者を雇い入れる際に、既に就業規則等に懲戒処分のルールを明文化し、周知する必要があるということになります。
結果的には、「契約説」の立場に立って準備することが無難ということになりますね。

『請負契約』って何?

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先日放送された『ダンダリン 労働基準監督官』(日本テレビ系TVドラマ)で、一般的な雇用契約の社員を請負契約に契約変更し、賃金の大幅カットを実施した事業主を竹内結子さん演じる労働基準監督官が懲らしめるというエピソードがありました。
結構、専門的な内容で一般の視聴者がどれ程理解できたのか、少々疑問も残りますが、請負契約と雇用契約の違いについて少しコメントをしたいと思われます。

いわゆる雇用契約とは、事業主が労働者と雇用契約を行い、事業主等の指示命令の下で労働者が役務の提供を行い、その見返り(報償)として賃金を受け取るという形態のものを言います。

では、請負契約とはどんなものでしょうか。

適正な請負契約を維持するためには、注文者(雇用契約の場合の雇用主にあたる)は請負業者(個人事業者を含む)に対して、①労務管理上の独立性及び②経営上の独立性を確保させることが必要となります。
具体的には、次のような要件となります。
【労務管理上の独立】
ア.請負業務の遂行方法に関する決定は請負業者自身が行い、注文者の指示命令は受けないこと。
イ.請負業務を行う時間(作業時間)や、休憩時間、休日は請負業者自身が決定し、注文者から作業時間・休憩・休日の具体的な指示は受けないこと。
ウ.業務の範囲(完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容など)が「請負契約書」などで明確になっていること。
エ.請負業務遂行に関し、労働者を使用する場合は、その労働者の秩序維持・必要な設備・備品の調達、労働時間管理等は請負業者が行うこと。(必要な人員・配置・人選その他について注文者の指示・承諾を受けることなく決定していることを含む)
【経営上の独立】
ア.請負業務遂行に必要とする資金を全て自らの責任で調達・支弁していること。
イ.業務の処理について、民法・商法その他の法律に規定された事業主としての責任を負うこと。
ウ.単に肉体労働を提供するものでないこと。(次の①又は②に該当すること)
①請負業務遂行に必要な機械、設備もしくは器材又は材料等は、請負業者の責任と負担で準備・調達すること。
②請負業者が自ら企画し、または請負業者の持つ専門的な技術・ノウハウによることで請負業務が処理されること。)

以上の通り、請負契約はこれを適正とするにはかなり高いハードルがあることになります。
ダンダリンでは、比較的簡単に、それまで雇用してきた労働者との労務提供に係る契約を「請負契約」=「個人事業主」というように変更し、あたかも適法というような件がありましたが、労働基準監督官が雇用契約書のみを見て、これは個人事業主と言い切ってしまうところなど、とても疑問が残ったように思います。
つまり、それほど簡単ではないとうのが本音であり、ましてや元々労働者として雇用していた人たちを請負契約に変更して、労働者性を否定することは相当に困難と言わざるを得ないと思いますので、ドラマの主旨にはかなり無理があったかなというのが感想です。

それはそうと、この指南をしたのが、社会保険労務士という設定になっていましたが、同じ社会保険労務士の立場から言わせていただくと、あまりに幼稚な提案であり、このような提案をしている者が、労務の専門家というのは、甚だおこがましいと言わざるを得ないと思ったのが本音でした。

もう少し、現実的な脚本(設定)を望みたいものです。

整理解雇の仕方

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世間的には景気低迷が一段落したというような風潮がありますが、大阪の街には未だ不景気が停泊しているように思われる今日この頃です。
つい先日も、社会保険料の滞納についての相談があって、リストラなどのときの注意事項について説明させていただいたところです。

本日は、その中でリストラ手法の一つ『整理解雇』の手順について少し紹介したと思います。

①人員整理の必要性
②解雇回避努力義務の履行
③解雇対象者の人選基準
④手続きの妥当性

この4つの要件を『整理解雇の4要件』と言います。

これをかいつまんで解説しますと、次のようになります。
まず第1の要件『人員整理の必要性』ですが、「相当の経営上の必要性」があると認められなければならない。
第2の要件『解雇回避努力義務の履行』ですが、労働者の解雇という選択をする前に十分な回避努力を講じていることが必要とされてます。例えば、役員報酬の減額や新規採用の抑制、希望退職の募集、配置転換・出向といった対策をとった上での整理解雇の選択ということが必要とされています。
次に第3の要件『解雇対象者の人選基準』とは、対象者の人選が合理的であり、公平でなければならない。つまり、好き嫌いみたいな人選に見えるようでは無効と言われる可能性があると思います。
最後に『手続きの妥当性』ですが、これは、整理解雇の実施については手続きの妥当性が重要視されますので、いかに必要性や人選基準・解雇回避の努力が十分に行われていても、整理解雇を進めるうえでの「説明責任」や「労使協議」、「労働者の納得」がされていないと全てが無効とされる場合があると言うことになります。

わたくしの事務所の直接の顧問先の話しではありませんが、近々この4要件の説明をしなければならないような案件を抱えておりますが、そろそろ拡大戦略などのお話しができるような経済環境になってほしいものです。

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