Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

2013年11月

交通事故の被災労働者が休業補償を120%貰う方法

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労働者が就業中に自動車による交通事故に遭うことって結構ありますね。
わたくしも若い頃にサラリーマンをしているときに会社の営業車で事故をしたことがあります。
幸運だったことにけが人が出るような大事には至らず、物損のみで済んだので労災申請にまでは及びませんでしたが・・・

自動車事故といっても色々なケースがありますが、今日ご紹介をしようと思っているのは、被災労働者が完全な被害者である場合です。

状況はこんな感じです。
K社の労働者A君は会社の営業車で得意先巡回中に、信号停止をした際に後続の車両運転手Bの前方不注意により、追突をされました。この事故でA君は、右足骨折と前歯の欠損という負傷をし、全治2か月の休業を余儀なくされました。
当然、自動車事故の被害でしたので、K社とA君は、Bから損害全額の補償を受けることで事故処理を進めておりました。

事故が概ね解決したころ、偶々K社に訪問することがあり、今回の事故があったことを知ることになりました。今回は100%無過失の事故でしたので、労災は使用する必要がないだろうということで、わたくしへの連絡がなかったようでした。

このような事故の場合は、結構労災申請がなされないことが多く、請求漏れが起こっているようですが、被害事故でも請求できる労災保険が一つあります。
これが特別支給金です。
皆さんもご存じのとおり、第三者行為災害の被害事故の際に就業中の事故でも相手方から補償が受けられる場合は、その損害賠償額の範囲で労災補償が控除(不支給)されるという規定がありますが、特別支給金はこの規定の適用を受けないと定められています。
つまり、100%無過失の被害事故であっても、すべての損害賠償の支払い処理が終わり、示談が成立しておれば、この特別支給金を請求することができるということです。

わたくしは、K社の社長とA君にこの特別支給金の規定を説明し、特別支給金の申請をするようにお勧めしました。
その結果、A君は、B(正確にはBの契約する自動車保険会社)より治療費、休業補償、後遺障害補償の全額を受けたうえで、休業特別支給金(休業給付基礎日額の20%)を受けることができ、結果的に休業補償額は休業補償額の120%ということになったのです。

なお、余談ですが、交通事故の相手方保険会社の事故担当者が、労災事故を先行して手続きを進めてほしいということを言ってくることがあるようです。もちろん、労災申請と自賠責保険のいずれを先行するかということは法的に決まっていることではありませんので、労災を先行しても問題はありません。
(実際には「自賠責保険先行で処理するように」というような通達が出ていますので、労働基準監督署は「自賠責先行」を進めるようですが・・・)
しかし、労災を先行すると自賠責保険の保険金額が微妙に変わることがあります。
これは、被害者が労災保険の補償を受けた場合は、休業補償額より労災保険での給付分を控除することができるという約款になっているからです。
つまり、労災を先行すると休業補償額は100%で止まってしまうということです。

同じ事故の補償ですが、労災先行と自賠責先行の順番が変わるだけで、補償額が20%も増減する可能性があるということになりますので、注意が必要ですね。

なお、このケースでは自賠責(+任意保険)先行で問題はありませんでしたが、過失割合が争われるケースや相手方が保険の状況次第では、労災先行の方が被害者を救済できることもありますので、ケースバイケースで処理方法は検討が必要ということだけ申し添えます。

健康保険の被扶養者の認定基準(収入基準)

健康保険の被扶養者にいくつかの認定基準があるのはご存じと思いますが、収入基準についても年収130万円というのがあります。(60歳以上の者等は180万円)
この年収基準が、どこに規定されているのかご存知でしょうか?
健康保険法の本則にあると思っている方も多々いると思いますが、法律条文には一切触れられておらず、本則には、「主として生計維持」の被扶養者の範囲と「同一世帯」要件の被扶養者の範囲が記載されるのとどまっています。

では、どこに定められているかというと、厚生労働省(当時はまだ「厚生省」)の「通達文書」として管轄の官庁に案内されたもののようです。
ご参考までに全文を引用させて頂きます。

因みに、厚生労働省の法令等データベースにアップされていますので、参考にしてみて下さい。→URLhttp://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/index.html

◆収入がある者についての被扶養者の認定について◆

(昭和五二年四月六日)

(保発第九号・庁保発第九号)

(各道府県知事あて厚生省保険局長・社会保険庁医療保険部長通知)

 健康保険法第一条第二項各号に規定する被扶養者の認定要件のうち「主トシテ其ノ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スルモノ」に該当するか否かの判定は、専らその者の収入及び被保険者との関連における生活の実態を勘案して、保険者が行う取扱いとしてきたところであるが、保険者により、場合によっては、その判定に差異が見受けられるという問題も生じているので、今後、左記要領を参考として被扶養者の認定を行われたい。

 なお、貴管下健康保険組合に対しては、この取扱要領の周知方につき、ご配意願いたい。

 

 1 被扶養者としての届出に係る者(以下「認定対象者」という。)が被保険者と同一世帯に属している場合
(
) 認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の二分の一未満である場合は、原則として被扶養者に該当するものとすること。
() 前記(1)の条件に該当しない場合であっても、当該認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上廻らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差し支えないこと。
2 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合
認定対象者の年間収入が、一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助に依る収入額より少ない場合には、原則として被扶養者に該当するものとすること。
3 前記1及び2により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとすること。
4 前記取扱いによる被扶養者の認定は、今後の被扶養者の認定について行うものとすること。
5 被扶養者の認定をめぐって、関係者間に問題が生じている場合には、被保険者又は関係保険者の申し立てにより、被保険者の勤務する事業所の所在地の都道府県保険課長が関係者の意見を聴き適宜必要な指導を行うものとすること。
6 この取扱いは、健康保険法に基づく被扶養者の認定について行うものであるが、この他に船員保険法第一条第三項各号に規定する被扶養者の認定についてもこれに準じて取り扱うものとすること

以上の通りの文書で規定されているようで、確かに年収要件は130万円ということが記載されています。
極めて庶民の生活に影響の多い規定ですので、「
根拠条文」はできればもう少し分かり易いところに置いておいてほしいものですね。

 

通勤の逸脱・中断と通勤災害

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通勤途上での事故による負傷等(いわゆる通勤災害)が労災保険の適用を受けることが出来るということはよく知られていることと思います。
また、通勤途中にコンビニで日用品の購入に立ち寄ったとか病院やクリニックの診察を受けるために寄り道をした場合等は、労働者災害補償保険法第7条第3号但書き、「通勤経路の逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」に定める通り、通勤災害の認定を受けることは可能と言えます。

先日、知り合いがコンビニの中で転んでケガをしたというのが話題があり、ふと思い出したのですが、以前わたくしの担当する関与先の事業所の労働者でこのようなことがあり、少々慌ててしまったことがありましたのでご紹介したいと思います。

その事故は、通勤途中の路上で誤って転倒したことによる頭部打撲(外傷性のくも膜下出血に至ったため少々大事になった事例ですが・・・)による手術・入院ということで問題なく「通勤災害」に認定されるようなものでしたが、この事故について労働基準監督署より詳しく事故状況の確認をしたいという依頼があったのです。
最初は、「くも膜下出血」というケガであったため、病気の疑いでもあったのかと思ったのですが、実際には被災者がケガをした場所が、コンビニの目の前であり、救急搬送された場所の記録がコンビニの店舗内という記録があったためでした。
これは、コンビニの前での事故だったため、路上で倒れていた被災者をコンビニ店員が救助のため店舗内に担ぎ込んで救急車の到着を待っていたというのが事実でしたが、労働基準監督署の確認事項は事故の発生場所がコンビニの中か外かという確認だったのです。

そこで思い出したのが、上記の労働者災害補償保険法第7条第3号但書きでした。

仮に被災者が帰宅途中、日用品の買い出しのためにコンビニに立ち寄っても通勤行為の再開後であれば通勤災害認定はされますが、これが中断中の出来事であれば「認定」はされないということなのです。
この事案では、事故の発生場所がコンビニの外だったため「通勤災害」に認定されましたが、この被災者が足を滑らせたのがコンビニに入ってからであったならこの通勤災害は認定され無かったということになります。
もちろん、この被災者は元々コンビニに立ち寄るつもりはなかったと思いますが、通勤経路の途中にあるコンビニであり、普段から利用しているお店であったことは事実であるため、あの日本当にコンビニに入ってから転んでいたのであれば、更に不幸なことになったかもしれません。

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「管理監督者」とは、どんな人?

皆さんは、よく「管理職」は残業手当はいらないということをお聞きになると思いますが、労働基準法で本当にそのようなことが容認されているのでしょうか?
私もかつて、一般の会社に務めておりましたが、当時の課長級以上の社員は、「管理職」として、労働組合の組合員にもならないという待遇になっていました。
平社員だった私でしたので、実際に課長が残業手当の支給を受けていないのか確認する術はありませんでしたが、課長級以上の先輩社員は、残業しても手当はつかないようなことを愚痴っていたように記憶しています。

それでは、「管理職」に残業がつかないというのは、どこから出てきたことなのでしょうか。
これは、労働基準法第41条第2号に「管理監督者」という規定があることに起因してと思われます。
ここでいう「管理監督者」は、確かに労働基準法で定める労働時間、休憩・休日の規定は適用しない。つまり時間外・休日の規定を適用しないと明記されています。
この規定から「管理職」 には、残業手当・休日勤務手当は支給する必要が無いと認知されてしまったようです。

しかしながら、昨今この「管理監督者」の定義が問題とされて、従来の管理職=残業手当不要の常識?が崩れてきているのです。

なぜなら、労働基準法で定める「管理監督者」と一般的な企業の「管理職」はまったく異なるものであるということだからなのです。

皆さんは数年前に「名ばかり管理職」という言葉が新聞紙上を賑わせたことをご記憶でしょうか?
大手紳士服チェーンの店長や外食産業の店長といった「管理職」が未払い残業手当の支給を要求した事件ですが、これは企業側は店長を「管理監督者」であるため時間外手当等は支給しないと主張したのに対し、労働者側は店長は「管理職」には違いないが「管理監督者」には当たらないので時間外手当等の支給は必要として争い、軒並み企業側が負けたという裁判です。

では、どのような方々が「管理監督者」に当たるのか?
厚生労働省は次のような労働者を「管理監督者」として定義しています。

①労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容 を有していること
②労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
③現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
④賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

上記ではちょっと分かりにくいので、言いかえると次のようになります。
①労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること。
②部下の労働条件の決定や人事権、店舗の運営方針・営業方針の決定など経営者から重要な責任と権限を委ねられていること。例えば「部長」や「店長」という肩書はあっても自らの裁量で行使できる権限が少ない場合は、管理監督者にはあたらない。
③時を選ばず経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にあること。労働時間について、経営者から厳格な管理をされているような場合は、管理監督者にはあたりません。
④その職務の重要性から、定期給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して相応の待遇がなされていること。つまり、管理職手当「数万円」程度の役職手当がついているだけでは、管理監督者には当たらない。

以上の定義を踏まえて、皆さんのまわりにいる「管理職」の方々、又は、「管理職であるご自身」がこういった要件に合致しているか想像してみてください。

恐らく、世間一般の「管理職」のほとんどは「管理監督者」には該当せず、「普通の労働者」ということになるのではないでしょうか。

社内旅行における問題点を検証

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最近は、だいぶ減ってきたのかなとも思いますが、社内旅行あるいは社員旅行を計画される会社さんはまだたくさんあると思います。
たまにそういった会社主催の旅行について質問されることもあり、金曜日から日曜日の2泊3日で計画したケースで起こりうる社内旅行の問題点を検証してみましたので、ちょっとご紹介したいと思います。

例えば、金曜(所定労働日)から土曜、日曜(所定休日)にまたがっての旅行日程で、参加は社員個々の自由参加という条件で、所定労働日と所定休日の各々で旅行参加者と旅行欠席者のそれぞれの対応について見てみました。

検討内容としては、「旅行欠席者」については、所定労働日に勤務する必要が無いということになり、「旅行参加者」については、所定休日に会社行事に参加しているということになりますので、この場合の「欠勤(?)」及び「休日出勤(?)」をどのように整理すればよいのでしょうか。

まず、「旅行参加者」についての休日の会社行事参加について、あくまでも強制参加ではなく任意参加である以上、所定休日の会社行事参加ですが、これは休日の扱いとなり、勤務の取扱にはなりえないということになります。
当然、旅行中に不慮の事故等が発生した場合も、労災適用などの問題は発生しないということになります。
しかし、これが「強制参加」ということになると、少々事情が異なってきて、旅行参加時間中が会社の拘束時間と取られる可能性がありますので、賃金の問題が出てくることが想定されます。
ですが、そうだと言っても万が一の事故の際は、「労災」の適用(業務でないため業務起因性も業務遂行性もあり得ない)は、恐らく困難であると言えますので、とっても注意が必要な状況になると思われます。

次に、旅行欠席者の「所定労働日の欠勤」ですが、元々通常の出勤日に該当しますので、会社は旅行に不参加の労働者についても仕事ができる環境を提供する義務があります。このため、「旅行欠席」=「欠勤」という取り扱いは出来ないとおもわわれます。
つまり、旅行不参加の労働者が希望した場合には、「勤務できる環境」を提供し、賃金を保障する必要があるということです。
仮に「勤務できる環境」を提供しない場合は、その出勤日は「会社都合の休業日」に該当し、労働基準法で定める「休業手当」を支給する義務が発生しますので、単純に会社行事に不参加なので、「欠勤」扱いにするというのは、いささか問題があると言わざるを得ないと考えます。

任意参加の所定休日における社内旅行を「休日」扱いにして、所定労働日における旅行不参加を「欠勤」の取扱にするというのは、均衡を欠くことになりますので、各々の立場を尊重した対応を考えることが重要ではないか思います。

労働基準法違反に対する告訴・告発

労働基準法違反に対して告訴・告発ができることを皆さんはご存知でしょうか?
労働基準法とは、労働者保護のために使用者のあらゆる行為を取り締まることができる取締法規です。
このため、労働基準法違反の事実があるとき、その被害者(労働者)はこれを告訴でき、違反の事実があると思料する者はこれを告発することができます。
それでは、この告訴・告発は誰に訴えることができるのでしょうか?
一般的に告訴や告発は、検察庁や警察に訴えるものですが、労働基準法違反等の場合は労働基準監督署に申し立てることができます。
もちろん、労働基準監督署を飛び越えて、直接地検に対して告訴・告発をすることもできますが、労働基準監督署は嫌がるでしょうね。
余談ですが、労働基準監督官という職業は、司法警察権を持っていますので、捜査や逮捕をすることも出来る権限を持っています。
ただの公務員と甘く見ているととんでもない目に遭うこともあるかも・・・
ところで、本題に戻りますが、告訴・告発の後にどのようなことに展開するかというと、刑事訴訟法の規定に従い、告訴内容に沿って労働基準監督官による捜査が行われて、容疑が固まれば、検察庁へ送検ということになります。
その後、検察官の捜査・聴取等を経て、「起訴」、「不起訴」、「嫌疑なし」等の決定がなされます。
なお、「不起訴」あるいは「嫌疑なし」とされた場合でもに、さらに「検察審査会」へ申し立てることができ、最終的にここで認められれば、強制起訴となって裁判に持ち込まれることとなります。
このような、規定の存在を「社会保険労務士」として知識としては持ち合わせていましたが、実際にこういったケースに遭遇することは極めてまれで、あまり関係ないと思っていました。
しかし、実際に告訴案件が身近に発生し、実際に労働基準監督官と面談している自らの現状を見ると、このようなことが我々の身の回りで起こってしまうというのが、現在の労働環境だということを思い知らされる今日この頃です。
皆さんもご注意ください。

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