労働者が就業中に自動車による交通事故に遭うことって結構ありますね。
わたくしも若い頃にサラリーマンをしているときに会社の営業車で事故をしたことがあります。
幸運だったことにけが人が出るような大事には至らず、物損のみで済んだので労災申請にまでは及びませんでしたが・・・
自動車事故といっても色々なケースがありますが、今日ご紹介をしようと思っているのは、被災労働者が完全な被害者である場合です。
状況はこんな感じです。
K社の労働者A君は会社の営業車で得意先巡回中に、信号停止をした際に後続の車両運転手Bの前方不注意により、追突をされました。この事故でA君は、右足骨折と前歯の欠損という負傷をし、全治2か月の休業を余儀なくされました。
当然、自動車事故の被害でしたので、K社とA君は、Bから損害全額の補償を受けることで事故処理を進めておりました。
事故が概ね解決したころ、偶々K社に訪問することがあり、今回の事故があったことを知ることになりました。今回は100%無過失の事故でしたので、労災は使用する必要がないだろうということで、わたくしへの連絡がなかったようでした。
このような事故の場合は、結構労災申請がなされないことが多く、請求漏れが起こっているようですが、被害事故でも請求できる労災保険が一つあります。
これが特別支給金です。
皆さんもご存じのとおり、第三者行為災害の被害事故の際に就業中の事故でも相手方から補償が受けられる場合は、その損害賠償額の範囲で労災補償が控除(不支給)されるという規定がありますが、特別支給金はこの規定の適用を受けないと定められています。
つまり、100%無過失の被害事故であっても、すべての損害賠償の支払い処理が終わり、示談が成立しておれば、この特別支給金を請求することができるということです。
わたくしは、K社の社長とA君にこの特別支給金の規定を説明し、特別支給金の申請をするようにお勧めしました。
その結果、A君は、B(正確にはBの契約する自動車保険会社)より治療費、休業補償、後遺障害補償の全額を受けたうえで、休業特別支給金(休業給付基礎日額の20%)を受けることができ、結果的に休業補償額は休業補償額の120%ということになったのです。
なお、余談ですが、交通事故の相手方保険会社の事故担当者が、労災事故を先行して手続きを進めてほしいということを言ってくることがあるようです。もちろん、労災申請と自賠責保険のいずれを先行するかということは法的に決まっていることではありませんので、労災を先行しても問題はありません。
(実際には「自賠責保険先行で処理するように」というような通達が出ていますので、労働基準監督署は「自賠責先行」を進めるようですが・・・)
しかし、労災を先行すると自賠責保険の保険金額が微妙に変わることがあります。
これは、被害者が労災保険の補償を受けた場合は、休業補償額より労災保険での給付分を控除することができるという約款になっているからです。
つまり、労災を先行すると休業補償額は100%で止まってしまうということです。
同じ事故の補償ですが、労災先行と自賠責先行の順番が変わるだけで、補償額が20%も増減する可能性があるということになりますので、注意が必要ですね。
なお、このケースでは自賠責(+任意保険)先行で問題はありませんでしたが、過失割合が争われるケースや相手方が保険の状況次第では、労災先行の方が被害者を救済できることもありますので、ケースバイケースで処理方法は検討が必要ということだけ申し添えます。