労働基準法に規定する『変形労働時間制』を分類すると4種類の制度に分けられます。

Ⅰ.1箇月単位の労働時間制(労基法第32条の2)
Ⅱ.1年単位の変形労働時間制(同第32条の4、第32条の4の2)
Ⅲ.フレックスタイム制(同第32条の3)
Ⅳ.1週間単位の非定型的変形労働時間制(同第32条の5)

本日は、その中でも最もポピュラーな制度と思われる『1年単位の変形労働時間制』の導入に係る注意事項をご紹介したいと思います。

【1】制度の意義

『1年単位の変形労働時間制』は、1箇月を超え1年以内の期間を平均して1週間あたり40時間を超えないことを条件として、主に季節によって、繁閑の差が大きい事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより、効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的に設けられたものです。

【2】制度の要件

1.労使協定の締結
 次の事項のすべてを労使協定による定める必要があります。

①対象労働者の範囲
  法令上、対象労働者の範囲に制限はありませんが、その範囲は明確にする必要がある。

②対象期間及び起算日
  対象期間は1箇月を超え1年以内の期間で設定します。また、起算日も設定する必要があります。

③特定期間

  上記②の対象期間中の特に業務の繁忙な期間を特定期間として定めることができます。もちろん、その必要がなければ定めなくてもかまいません。

④労働日及び労働日ごとの労働時間
  上記②の対象期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で定める必要があります。また、後述の【2.労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度】にも適合する必要があります。

⑤労使協定の有効期間
  1年単位の変形労働時間制を適切に運用するために対象期間と1年程度とすることが望ましいとされています。

2.労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度

①対象期間における労働日数の限度(対象期間が3箇月を超える場合)
  対象期間が1年の場合・・・280日
  対象期間が3箇月を超え1年未満の場合・・・280日×(対象期間の歴日数/365日)

②対象期間における1日及び1週間の労働時間の限度
  ㋐1日の労働時間は10時間、1週間の労働時間は52時間が限度となります。
  ㋑対象期間が3か月を超える場合は、次のいずれにも適合しなければなりません。
    ・労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは3週以下
    ・対象期間を3箇月毎に区分した各期間において労働時間が48時間を超える週数は、週の初日で数えて3回以下

③対象期間及び特定期間における連続労働日数の限度
  ㋐対象期間・・・連続労働日数の限度は6日間
  ㋑特定期間・・・連続労働に数の限度は1週間に1日の休みが確保できる日数(12日

3.労働日及び労働日ごとの労働時間の特定の特例

 労働日及び労働日ごとの労働時間の定め方は、①対象期間全てについて定める方法と②対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分して各期間が始まるまでに特定する方法の2つがあります。

 上記②の1箇月以上の期間毎に区分する場合は、次の要領で労働日・労働時間を労使協定に定めます。
  ㋐最初の期間における労働日及び労働日ごとの労働時間
  ㋑上記㋑以外の期間における労働日数及び総労働時間
   なお、㋑各期間の初日の30日前に各期間における労働日及び労働日ごとの労働時間を労働者代表等の同意を得て書面で定める必要があります。

4.所轄労働基準監督署への届出

 1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合は、様式第4号により所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。


以上の通り、1年単位の変形労働時間制は、変形労働時間制の中でも、かなり規制の多い制度と言えます。
上記以外にもここでは記載しきれない規制がありますので、実際の導入の際には十分要件を確認されることをお勧めします。

また、規制が多いということは、それだけ過酷な労働条件になりやすい制度とも言えます。
導入の際には、運用を含めて充分な検討が必要ということだと思います。