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労働者と企業の間で締結される労働契約によって、労働者には企業の指揮命令により業務を遂行するという義務が生じます。また、企業にはその対価としての労働者に対し賃金支払義務(債務)が生じることは言うまでもないでしょう。
この労働契約には、いくつかの付随義務が同時に生じると考えられています。これが、「業務専念義務」や「企業秩序遵守義務」といったものです。
これらは、労働者が企業のルールを守らなければならないとする根拠のような役割を果たしており、ルール違反を犯した労働者に対して罰(懲戒処分)を与える根拠となるものと考えられてきました。

企業の「懲戒権」の行使については、大別して2つの説があります。
①固有権説と②契約説の2つがこれにあたります。

では、具体的に両者の違いはどのようなものでしょう。

先ず、「固有権説」ですが、これは労働契約締結により企業側が「企業秩序の維持と規律を遵守する義務(つまりは、「企業秩序遵守義務」に当たるもの)」を固有的な権利として有することを意味し、特別な根拠規定がなくても懲戒処分を科すことができるとする説です。

これに対し、「契約説」では、懲戒処分は労働契約において、具体的に懲戒の基準や内容を合意することが必要とする説であり、懲戒処分の明確なルール化が必要とするものです。

言いかえると、「固有権説」では、労働契約自体に懲戒権が固有の権利として認められるため、具体的な罪刑は定める必要が無いということになりますが、「契約説」では、合意の原則に立った契約として懲戒権が存在するため、具体的な罪刑を事前に労使で合意する必要があるということになります。
つまり、自然法的に懲罰ができる「固有権説」に対し、罪刑法定主義に則った刑罰規範的な「契約説」ということになります。

現在、最高裁判例では、どちらかというと「固有権説」に近い立場の理論構成をしつつも、懲戒処分の適用に関しては、①予め就業規則等で懲戒内容と懲罰の内容を定めること、②就業規則の内容を労働者に周知することを基本的な要件としています。

結論としては、企業が固有的に有する「懲戒権」は認められるが、懲戒を科す場合は、予め懲戒事由を明確にし、労働者に周知する必要があるということになります。

つまりは、企業は労働者を雇い入れる際に、既に就業規則等に懲戒処分のルールを明文化し、周知する必要があるということになります。
結果的には、「契約説」の立場に立って準備することが無難ということになりますね。