Nishimoto労務クリニック

大阪市西区の社会保険労務士法人西本コンサルティングオフィスがご提供する労務問題に関するクリニックです。 労務相談のセカンドオピニオンとしてもお気軽にご利用いただけるような場にしたいと思っております。

『請負契約』って何?

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先日放送された『ダンダリン 労働基準監督官』(日本テレビ系TVドラマ)で、一般的な雇用契約の社員を請負契約に契約変更し、賃金の大幅カットを実施した事業主を竹内結子さん演じる労働基準監督官が懲らしめるというエピソードがありました。
結構、専門的な内容で一般の視聴者がどれ程理解できたのか、少々疑問も残りますが、請負契約と雇用契約の違いについて少しコメントをしたいと思われます。

いわゆる雇用契約とは、事業主が労働者と雇用契約を行い、事業主等の指示命令の下で労働者が役務の提供を行い、その見返り(報償)として賃金を受け取るという形態のものを言います。

では、請負契約とはどんなものでしょうか。

適正な請負契約を維持するためには、注文者(雇用契約の場合の雇用主にあたる)は請負業者(個人事業者を含む)に対して、①労務管理上の独立性及び②経営上の独立性を確保させることが必要となります。
具体的には、次のような要件となります。
【労務管理上の独立】
ア.請負業務の遂行方法に関する決定は請負業者自身が行い、注文者の指示命令は受けないこと。
イ.請負業務を行う時間(作業時間)や、休憩時間、休日は請負業者自身が決定し、注文者から作業時間・休憩・休日の具体的な指示は受けないこと。
ウ.業務の範囲(完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容など)が「請負契約書」などで明確になっていること。
エ.請負業務遂行に関し、労働者を使用する場合は、その労働者の秩序維持・必要な設備・備品の調達、労働時間管理等は請負業者が行うこと。(必要な人員・配置・人選その他について注文者の指示・承諾を受けることなく決定していることを含む)
【経営上の独立】
ア.請負業務遂行に必要とする資金を全て自らの責任で調達・支弁していること。
イ.業務の処理について、民法・商法その他の法律に規定された事業主としての責任を負うこと。
ウ.単に肉体労働を提供するものでないこと。(次の①又は②に該当すること)
①請負業務遂行に必要な機械、設備もしくは器材又は材料等は、請負業者の責任と負担で準備・調達すること。
②請負業者が自ら企画し、または請負業者の持つ専門的な技術・ノウハウによることで請負業務が処理されること。)

以上の通り、請負契約はこれを適正とするにはかなり高いハードルがあることになります。
ダンダリンでは、比較的簡単に、それまで雇用してきた労働者との労務提供に係る契約を「請負契約」=「個人事業主」というように変更し、あたかも適法というような件がありましたが、労働基準監督官が雇用契約書のみを見て、これは個人事業主と言い切ってしまうところなど、とても疑問が残ったように思います。
つまり、それほど簡単ではないとうのが本音であり、ましてや元々労働者として雇用していた人たちを請負契約に変更して、労働者性を否定することは相当に困難と言わざるを得ないと思いますので、ドラマの主旨にはかなり無理があったかなというのが感想です。

それはそうと、この指南をしたのが、社会保険労務士という設定になっていましたが、同じ社会保険労務士の立場から言わせていただくと、あまりに幼稚な提案であり、このような提案をしている者が、労務の専門家というのは、甚だおこがましいと言わざるを得ないと思ったのが本音でした。

もう少し、現実的な脚本(設定)を望みたいものです。

整理解雇の仕方

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世間的には景気低迷が一段落したというような風潮がありますが、大阪の街には未だ不景気が停泊しているように思われる今日この頃です。
つい先日も、社会保険料の滞納についての相談があって、リストラなどのときの注意事項について説明させていただいたところです。

本日は、その中でリストラ手法の一つ『整理解雇』の手順について少し紹介したと思います。

①人員整理の必要性
②解雇回避努力義務の履行
③解雇対象者の人選基準
④手続きの妥当性

この4つの要件を『整理解雇の4要件』と言います。

これをかいつまんで解説しますと、次のようになります。
まず第1の要件『人員整理の必要性』ですが、「相当の経営上の必要性」があると認められなければならない。
第2の要件『解雇回避努力義務の履行』ですが、労働者の解雇という選択をする前に十分な回避努力を講じていることが必要とされてます。例えば、役員報酬の減額や新規採用の抑制、希望退職の募集、配置転換・出向といった対策をとった上での整理解雇の選択ということが必要とされています。
次に第3の要件『解雇対象者の人選基準』とは、対象者の人選が合理的であり、公平でなければならない。つまり、好き嫌いみたいな人選に見えるようでは無効と言われる可能性があると思います。
最後に『手続きの妥当性』ですが、これは、整理解雇の実施については手続きの妥当性が重要視されますので、いかに必要性や人選基準・解雇回避の努力が十分に行われていても、整理解雇を進めるうえでの「説明責任」や「労使協議」、「労働者の納得」がされていないと全てが無効とされる場合があると言うことになります。

わたくしの事務所の直接の顧問先の話しではありませんが、近々この4要件の説明をしなければならないような案件を抱えておりますが、そろそろ拡大戦略などのお話しができるような経済環境になってほしいものです。

交通事故の被災労働者が休業補償を120%貰う方法

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労働者が就業中に自動車による交通事故に遭うことって結構ありますね。
わたくしも若い頃にサラリーマンをしているときに会社の営業車で事故をしたことがあります。
幸運だったことにけが人が出るような大事には至らず、物損のみで済んだので労災申請にまでは及びませんでしたが・・・

自動車事故といっても色々なケースがありますが、今日ご紹介をしようと思っているのは、被災労働者が完全な被害者である場合です。

状況はこんな感じです。
K社の労働者A君は会社の営業車で得意先巡回中に、信号停止をした際に後続の車両運転手Bの前方不注意により、追突をされました。この事故でA君は、右足骨折と前歯の欠損という負傷をし、全治2か月の休業を余儀なくされました。
当然、自動車事故の被害でしたので、K社とA君は、Bから損害全額の補償を受けることで事故処理を進めておりました。

事故が概ね解決したころ、偶々K社に訪問することがあり、今回の事故があったことを知ることになりました。今回は100%無過失の事故でしたので、労災は使用する必要がないだろうということで、わたくしへの連絡がなかったようでした。

このような事故の場合は、結構労災申請がなされないことが多く、請求漏れが起こっているようですが、被害事故でも請求できる労災保険が一つあります。
これが特別支給金です。
皆さんもご存じのとおり、第三者行為災害の被害事故の際に就業中の事故でも相手方から補償が受けられる場合は、その損害賠償額の範囲で労災補償が控除(不支給)されるという規定がありますが、特別支給金はこの規定の適用を受けないと定められています。
つまり、100%無過失の被害事故であっても、すべての損害賠償の支払い処理が終わり、示談が成立しておれば、この特別支給金を請求することができるということです。

わたくしは、K社の社長とA君にこの特別支給金の規定を説明し、特別支給金の申請をするようにお勧めしました。
その結果、A君は、B(正確にはBの契約する自動車保険会社)より治療費、休業補償、後遺障害補償の全額を受けたうえで、休業特別支給金(休業給付基礎日額の20%)を受けることができ、結果的に休業補償額は休業補償額の120%ということになったのです。

なお、余談ですが、交通事故の相手方保険会社の事故担当者が、労災事故を先行して手続きを進めてほしいということを言ってくることがあるようです。もちろん、労災申請と自賠責保険のいずれを先行するかということは法的に決まっていることではありませんので、労災を先行しても問題はありません。
(実際には「自賠責保険先行で処理するように」というような通達が出ていますので、労働基準監督署は「自賠責先行」を進めるようですが・・・)
しかし、労災を先行すると自賠責保険の保険金額が微妙に変わることがあります。
これは、被害者が労災保険の補償を受けた場合は、休業補償額より労災保険での給付分を控除することができるという約款になっているからです。
つまり、労災を先行すると休業補償額は100%で止まってしまうということです。

同じ事故の補償ですが、労災先行と自賠責先行の順番が変わるだけで、補償額が20%も増減する可能性があるということになりますので、注意が必要ですね。

なお、このケースでは自賠責(+任意保険)先行で問題はありませんでしたが、過失割合が争われるケースや相手方が保険の状況次第では、労災先行の方が被害者を救済できることもありますので、ケースバイケースで処理方法は検討が必要ということだけ申し添えます。

健康保険の被扶養者の認定基準(収入基準)

健康保険の被扶養者にいくつかの認定基準があるのはご存じと思いますが、収入基準についても年収130万円というのがあります。(60歳以上の者等は180万円)
この年収基準が、どこに規定されているのかご存知でしょうか?
健康保険法の本則にあると思っている方も多々いると思いますが、法律条文には一切触れられておらず、本則には、「主として生計維持」の被扶養者の範囲と「同一世帯」要件の被扶養者の範囲が記載されるのとどまっています。

では、どこに定められているかというと、厚生労働省(当時はまだ「厚生省」)の「通達文書」として管轄の官庁に案内されたもののようです。
ご参考までに全文を引用させて頂きます。

因みに、厚生労働省の法令等データベースにアップされていますので、参考にしてみて下さい。→URLhttp://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/index.html

◆収入がある者についての被扶養者の認定について◆

(昭和五二年四月六日)

(保発第九号・庁保発第九号)

(各道府県知事あて厚生省保険局長・社会保険庁医療保険部長通知)

 健康保険法第一条第二項各号に規定する被扶養者の認定要件のうち「主トシテ其ノ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スルモノ」に該当するか否かの判定は、専らその者の収入及び被保険者との関連における生活の実態を勘案して、保険者が行う取扱いとしてきたところであるが、保険者により、場合によっては、その判定に差異が見受けられるという問題も生じているので、今後、左記要領を参考として被扶養者の認定を行われたい。

 なお、貴管下健康保険組合に対しては、この取扱要領の周知方につき、ご配意願いたい。

 

 1 被扶養者としての届出に係る者(以下「認定対象者」という。)が被保険者と同一世帯に属している場合
(
) 認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の二分の一未満である場合は、原則として被扶養者に該当するものとすること。
() 前記(1)の条件に該当しない場合であっても、当該認定対象者の年間収入が一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上廻らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差し支えないこと。
2 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合
認定対象者の年間収入が、一三〇万円未満(認定対象者が六〇歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合にあっては一八〇万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助に依る収入額より少ない場合には、原則として被扶養者に該当するものとすること。
3 前記1及び2により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとすること。
4 前記取扱いによる被扶養者の認定は、今後の被扶養者の認定について行うものとすること。
5 被扶養者の認定をめぐって、関係者間に問題が生じている場合には、被保険者又は関係保険者の申し立てにより、被保険者の勤務する事業所の所在地の都道府県保険課長が関係者の意見を聴き適宜必要な指導を行うものとすること。
6 この取扱いは、健康保険法に基づく被扶養者の認定について行うものであるが、この他に船員保険法第一条第三項各号に規定する被扶養者の認定についてもこれに準じて取り扱うものとすること

以上の通りの文書で規定されているようで、確かに年収要件は130万円ということが記載されています。
極めて庶民の生活に影響の多い規定ですので、「
根拠条文」はできればもう少し分かり易いところに置いておいてほしいものですね。

 

通勤の逸脱・中断と通勤災害

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通勤途上での事故による負傷等(いわゆる通勤災害)が労災保険の適用を受けることが出来るということはよく知られていることと思います。
また、通勤途中にコンビニで日用品の購入に立ち寄ったとか病院やクリニックの診察を受けるために寄り道をした場合等は、労働者災害補償保険法第7条第3号但書き、「通勤経路の逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」に定める通り、通勤災害の認定を受けることは可能と言えます。

先日、知り合いがコンビニの中で転んでケガをしたというのが話題があり、ふと思い出したのですが、以前わたくしの担当する関与先の事業所の労働者でこのようなことがあり、少々慌ててしまったことがありましたのでご紹介したいと思います。

その事故は、通勤途中の路上で誤って転倒したことによる頭部打撲(外傷性のくも膜下出血に至ったため少々大事になった事例ですが・・・)による手術・入院ということで問題なく「通勤災害」に認定されるようなものでしたが、この事故について労働基準監督署より詳しく事故状況の確認をしたいという依頼があったのです。
最初は、「くも膜下出血」というケガであったため、病気の疑いでもあったのかと思ったのですが、実際には被災者がケガをした場所が、コンビニの目の前であり、救急搬送された場所の記録がコンビニの店舗内という記録があったためでした。
これは、コンビニの前での事故だったため、路上で倒れていた被災者をコンビニ店員が救助のため店舗内に担ぎ込んで救急車の到着を待っていたというのが事実でしたが、労働基準監督署の確認事項は事故の発生場所がコンビニの中か外かという確認だったのです。

そこで思い出したのが、上記の労働者災害補償保険法第7条第3号但書きでした。

仮に被災者が帰宅途中、日用品の買い出しのためにコンビニに立ち寄っても通勤行為の再開後であれば通勤災害認定はされますが、これが中断中の出来事であれば「認定」はされないということなのです。
この事案では、事故の発生場所がコンビニの外だったため「通勤災害」に認定されましたが、この被災者が足を滑らせたのがコンビニに入ってからであったならこの通勤災害は認定され無かったということになります。
もちろん、この被災者は元々コンビニに立ち寄るつもりはなかったと思いますが、通勤経路の途中にあるコンビニであり、普段から利用しているお店であったことは事実であるため、あの日本当にコンビニに入ってから転んでいたのであれば、更に不幸なことになったかもしれません。

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